高校での地獄の三年間を経て、辿り着いた今の前髪を愛してる

前髪というものは、その人の印象に大きく関わるものだと思う。前髪ひとつでがらっと印象が変わってしまう。そんな大事な部分なのに、高校生までの私は前髪にまるでこだわりがなかった。
前髪は目にかからなければいい、くらいの意識だった。後ろ髪を切る機会があれば前髪も美容室でついでに切ってもらっていたが、それ以外のときは自分で切っていた。
綺麗に切り揃えられたぱっつん前髪にしたい訳でもなく、かといって横に流したい訳でもなかった。なんとも中途半端な、しかも自分で切っているのでガタガタな前髪だった。もちろんヘアアイロンでセットすることなんて知らなかった。
そして私は、中途半端な前髪のまま高校生になった。視力が悪くて眼鏡もかけていた。なんとも垢抜けない、どんよりした高校デビューだった。首席で高校に入学したこともあり、完全にガリ勉優等生のイメージがついてしまった。
その頃、私はアンチ高校デビューだった。中学から高校に上がるだけなのに、高校入学を機に髪型を変えたり、眼鏡からコンタクトにしたり、そういうことが恥ずかしいと思っていた。だから前髪もそのままで高校生になってしまった。
違和感に気づき始めたのは、高校一年生も終わろうとしていた時期だった。周りの女子たちはみんな可愛くて、どんどん垢抜けていっていた。学校に来るだけなのに可愛くヘアアレンジしているし、先生にバレないギリギリの化粧をしていたし、スカートも短くしていた。
それに何より、ガタガタの前髪をセットしないで放置している人など、誰もいなかった。
学年一位の成績は守りたかったが、優等生のイメージを払拭したかった私は、あることに気づいた。お洒落をして、少しでも垢抜ければ、地味な優等生から脱出できるのでは?と。
スタートラインに立つのがあまりにも遅かった。それに長期休みの間にイメチェンしておいて、二年生から新たなスタートを切ればいいものを、それも出遅れてしまって二年生の途中からイメチェンを開始した。そういう中途半端なところがやっぱり間が抜けている。
ともかく高校二年生でイメチェンを決行した私は、まず眼鏡をやめてコンタクトにした。そしてそのタイミングで、ヘアアイロンで前髪を横に流すようになった。これで少しでも優等生のイメージが無くなれば。とにかくその一心だった。
その結果、優しい友達一人は「可愛くなったね」と言ってくれたが、他の人からは「なんか今更頑張ってるよ」みたいな白い目で見られた。校則違反のヘアアクセサリーを着ければ「調子に乗ってる」「優等生だからって見逃してもらってる」と陰口を言われた。他の普通の女子たちは、仲間内で可愛いと言い合っていたのに、私はその中に入ることはなかった。
そんな私にとって地獄の三年間を終え、社会人になっても、前髪を変えることはなかった。きっかけはどうあれ、前髪をセットするようになったことで自分を可愛いと思えるようになったのは事実だった。他の前髪が似合う気もしなくて、ずっと同じ前髪を続けていた。
社会人四年目くらいのことだった。もう高校生の頃流行っていた前髪は、ブームが去りつつあった。そんなときに妹に、「ぱっつん前髪似合うんじゃない」と言われた。
妹は私よりお洒落への感度が高くて、大人の私よりもよっぽどいろんなことに気を遣って、垢抜けている。そんな妹が言うことだから間違いないと思った。そしてぱっつん前髪をネットで調べていたところ、「面長解消に良い」と書かれていた。面長が気になっていた私にはもってこいだと思った。
早速美容室でぱっつん前髪をオーダーすると、私の顔にしっくり来た。以来、何年か経つが私はまだぱっつん前髪を続けている。もちろん前髪が変わっても、毎日ヘアアイロンで綺麗にセットするのも忘れない。
前髪を変えたのは最初はポジティブな理由じゃなかったけれど、私は今の前髪を愛している。きっかけは何であれ、理想の前髪でいられることは嬉しい。次に前髪を変えるのがいつどんなときか、ちょっと楽しみだったりもする。どうせ妹の鶴の一声が理由だろうけど。
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