この子しかいない。一目見て、私はそう確信したのだった。

文鳥と暮らし始めて4年になる。ペットと暮らすというのは、この子が私の人生では初めてだ。甘えんぼでやんちゃ、でもちょっと臆病な男の子。毎日が「かわいい」で溢れていて、一緒に暮らすと決めて本当に良かったと思っている。

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それにしても、自分がペットと暮らすようになるなんて思ってもみなかった。無類の動物好きというわけでもないし、テレビなどでペット特集を見ても心は動かなかった。

それに、私にとって「命」というのは人一倍重く、人生のテーマでもあった。

難病とともに一生を生きなければならない私は事あるごとに「生きる」「死ぬ」について考えてきた。命を迎え入れるには相当な覚悟が要る。私がもし入院したら?実家暮らしであるから世話をしてくれる人は誰かしらいるだろうけど、他に誰かいるからいいや、という問題ではない。

大袈裟かもしれないが、自分の命すらままならない私が他の命について責任を持てるのかずっと悩んでいた。

それでも、文鳥と暮らしたい。私は毎日文鳥のことしか考えられず、ネットで文鳥の写真を漁り、文鳥と暮らす人たちのSNSを眺めてばかりいた。時間はあっという間に溶けた。

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それでも飽き足らず、ある日、文鳥を飼う飼わないは置いておいて実際に見に行ってみようと思い立った。見に行くだけなら誰にも責任はないし、もしかしたら実物の文鳥を見たらそれで満足するかもしれない。そう思った私は県中心部のペットショップに行ってみたのだった。

文鳥は秋〜冬に多く生まれる。私がペットショップに行ったのは6月だったので、春生まれの文鳥が数羽いるだけだった。

その中の真っ白い文鳥と目が合った。思わず時間を忘れて見つめていると店員さんに声をかけられた。「手に乗せてみますか?」おそるおそるケージに手を入れると、すぐにその白い子が私の手に乗ってきた。手を引っ込めようとすると小さな足に力を込めて降りるまいと踏ん張っている。

完全に私の心は掴まれていた。この子しかいない。まさしく一目惚れだった。

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そうは言っても相手は命。かわいいからといって衝動的に迎え入れていいものではない。そもそも、私は文鳥を見にきただけなのであって、迎え入れるつもりで来たのではないのだ。同居の家族にも何も話していない。

理性を総動員させてその日は家に帰った。家に着いてからも私はあの白い文鳥のことばかりを考えていた。家族にもその話ばかりしていたと思う。

次の日母とまたペットショップに行き、数日後また行った。他のペットショップにも寄ってみたけど、あの白い子が頭から離れることはなかった。

そして数日後、家族とも話し合い文鳥を迎え入れることに決めた。

同時に、もしあの子がもういなくなっていたら私は文鳥とは暮らさないとも決めていた。あの子じゃないとダメなのだ。

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例のペットショップに行った。もう1週間以上経っていたから不安に思っていたが、あの白い文鳥はいた。「この子、ヤキモチ妬きで他の文鳥に攻撃ばかりするんですよ」と店員さんが笑いながら言った。

もう心は決まっていた。それならば、私と暮らそう。私はずっと君のことばかり考えていたんだから。ヤキモチなんてもう妬かせない。

ケージや水挿し、文鳥のご飯など必要なものをその場で買い車に積み込んだ。私は文鳥が入った小さな箱を胸に抱いた。ケーキが入った箱のように、落とさないように、揺らさないように大事に大事に抱いた。

この日から、一目惚れした文鳥との生活が始まったのだった。