1人暮らしを始めて最初の夏休み、やっとのことでアルバイトを始めた。

「お風呂に入りなさいって言われないって、こんなに自由で、こんなにダメなんだな」。

8時30分出勤で休憩を挟み18時に退勤するプールの監視員。バイト4つ掛け持ちの限界大学生、就職の内定が決まった大学生、最近公園で告白に成功し、彼女ができた大学生。同世代が多く、楽しい反面、人見知りの私は、密かに労力を使っていた。

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帰宅後、眠気に耐えられず、6畳の部屋にも辿り着かないキッチンとトイレ洗面所の間の廊下で倒れるように寝た。お昼の気温は36度、この時間帯でも32度はあっただろう。扇風機も冷房もつけず、バイトの貸し出しのシャツと短パンの格好で。

マンションに住んでいたので、熱がこもりやすく、非常に暑かった。その気温も感じないくらい眠気に襲われていた。これだけ聞けば、ほぼ何かの罰ゲーム。実家でこんなことしていたら、母親に「お風呂に入りなさい」と言われただろう。

実際、住民育成ゲームにはまっていた時は、40分くらいかけてみんなにご飯をあげていたので、母親の「お風呂に入りなさい」を何度も浴びていた。「今入ろうと思ったのに!」とか、「今じゃないんだよな」とか面倒に感じていた。

今考えると、私の切り替えスイッチを押してくれてたのだろう。もちろん、その後にする洗濯だったり、お風呂掃除だったりも考えてくれていたと思うが。

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でも、この家では誰も言ってくれない。お風呂も洗濯も掃除も朝起きることだって、全部"自分がやろうと思った時"にしか始まらない。そのせいで生ゴミのゴミ出しを忘れて、帰ったら、部屋中生ゴミ臭がしたこともあった。

太陽に追いかけ回された感じの寝汗で目覚めた。「うわ!」ってなる気持ち悪さと室内の暑さ。今思い出しても気持ちが悪い。

そこから仕方なくお風呂に入り、ちょっとすっきりし、また朝が来てプールに行く。1人暮らし1年目の夏は、そんな日々の連続だった。

夏までは只々自由だった。まだ明るい時間にお風呂に入ることも日付が変わってからお風呂に入ることもあった。お風呂と言ってもシャワーなのだが。

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一人暮らしって、「全部自分プロデュース」だ。
自分がマネージャーで、自分がアイドルで、自分がカメラマンで、自分が舞台監督。
朝起こすのも自分、スケジュールを管理するのも自分、行動するのも自分、サボっても怒らないのも自分。なんなら、ファンも自分か。自己肯定感で会場を埋め尽くさなければならない。

しかも結構無能なマネージャーを雇っている。やる気は気まぐれ、出勤途中で寝坊するし。

もうすぐ社会人になる。今よりも距離的に親元から離れるだろう。実家に帰る回数も減るだろう。まだまだ過酷なプロデュースは続く。今日も誰も何も言ってくれない。でも、私はすでにお風呂に入った。えらい。それだけではない。洗濯ものも干してある。褒めて欲しい。自己肯定感という名のファンを増やしたい。
今日も有能なマネージャー育成中。