今日も家族LINEをしながら、帰りたい実家に思いを馳せる

実家暮らしはあまりにも楽で、好きだった。
実家にいれば黙っていてもご飯が出てくる。勝手に洗濯がされている。もちろん私も手伝いはするが、あくまで家事の主導権を握っているのは母で、私は「手伝い」という形で家事をしていた。
女子トークがいくらでもできるのも、実家の大きな良さだった。
両親が離婚しているので、母と子供三姉妹で暮らしていた。女しかいない家は、楽だ。常にお喋りが止まらない。仕事の話、学校の話、自分の趣味の話、何でも話す。家族全員に話す。
そして何より実家の良いところは、価値観の擦り合わせが必要ないところだ。
同じ親に育てられ、同じ環境で育ってきた子供たちは、生活するうえで必要な価値観は同じだ。シチューで白米が食べられるし、トマトは切ってそのまま食べる。
三姉妹の中で誰よりも早く実家を出た私は、実家の有り難みをしみじみと感じている。実際、実家に住んでいないということは、寂しい。
当たり前だが、実家に住む三人がどういう話をしているのか、私は知らない。新作のお菓子を買ったことも知らない。姉と妹が二人でしゃぶしゃぶを食べに行ったことも知らない。母の新しいピアスも知らない。
時々実家に帰ると、知らない置物が増えていたりする。新しいタオルに替わっていたりする。当然、新しい置物を買ったときの「これ可愛いでしょ、安かったんだよ」という会話を私は聞いていないし、タオルを替えるときの「こんな古いタオル捨てるよ!」という会話も私は聞いていない。こんな会話も、私の想像でしかない。
私は今ひとり暮らしではない。彼氏と同棲している。それ自体は何も寂しいことではなく、むしろ幸せなことだ。私は今幸せだし、同棲するという選択をして良かったと心から思う。何も後悔していない。でも幸せと寂しさは共存する、それは矛盾していないということが、実家を出て初めてわかった。そんな寂しさから、家族とはしょっちゅう電話をしている。
同棲している彼とはこのまま結婚するつもりだから、私はもう実家に住むことはないだろうと思う。でも不謹慎だからあまり考えないようにしているが、もしも彼と別れるようなことがあったら、同棲を解消するようなことがあれば、私は迷わず実家に帰る。ひとり暮らしはしない。同棲しているので家事能力はそこそこ鍛えられてきたはずだし、今どき女のひとり暮らしも珍しくない。私だってひとり暮らしくらいできる。でも私にはひとり暮らしという選択肢はない。彼と住む幸せを取るか、実家の楽さを取るか、そのどちらかなのだ。
私にとって、帰りたいと思える実家でよかったと思う。父と暮らしていたときは、父の怒鳴り声に怯え、父の機嫌を伺いながら生活していた。父のいる家を出て女だけの生活をすると決めて、行動して、よかったと改めて思う。帰りたい、居心地の良い実家とは私にとって「ある」ものではなく、「作る」ものだった。素敵な実家を自分たちの手で作れたことを、誇りに思う。
今日もLINEでくだらないやり取りをしている私たちだから、まだまだ帰りたい素敵な実家だな、なんて思う。
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