これは私がダイエットを目的にウォーキングを始めた春頃に見つけた限定的な景色の話だ。
季節は桜が少し咲き始めたくらいの春。

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私は田舎(比較的マシ)から田舎(ガチ)へ引っ越しをした。
以前どこかのCMで、人生で引っ越しをする回数は約3回!などと言われているのを耳にしたことがある。

しかし、私は引っ越しと縁があるのか世間の引っ越し回数よりも多く住居を移してきた。
24歳になった今、片手では足りないくらいのお引っ越しをすでに経験している。
その為、洗濯機や冷蔵庫をのぞいた荷物はやろうと思えば一日でまとめて軽自動車ですぐに運べるし荷解きも慣れたものであった。

新しく私が住むことに決めた賃貸は周りに墓と神社と田んぼしかないど田舎であった。
家賃の割には部屋は広く綺麗でフロトイレ別のため迷うことは無かった。

ただ、近くの神社や墓が原因なのか少々住み心地に問題ありなのだかそれはまた別の機会に話そうと思う。
気になる賃貸の後ろには山?があった。
急勾配は無いが、細い道の下には大きな池のようなものがあり急カーブが連続した道でできている。そして、ところどころガードレールが無いためか事故が絶えない場所らしい。
実は私の母親も若い頃にカーブを曲がりきれず池の直前まで車が落下して怪我をしたようだ。

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はじめは、賃貸でそんな道を後ろに構えており通勤に使用することに少々マイナスな気持ちを持っていた。
しかし、あるきっかけでイメージがプラスに好転した。
ダイエットのために最適ではないかと家の近くをウォーキングしていた時にご近所さんから教えてもらった。

裏山は事故が多いけど日中はお年寄りの定番お散歩コースになっている。貴方も歩くなら一度は行ってみてはどうか。そんな感じの話であった。
せっかくお話を聞けたし行ってみるかといつもより少し歩く距離を伸ばして普段は足を運ばない裏山に向けて歩いた。

てくてくてくてく歩いて行く。
なんとなく上を見てハッとした。
ぐるっと山道を囲むようにして植えられた木々に見覚えがあったのだ。
そのうちの一本に近寄ってみると桜の木だった。

まだ蕾ばかりで綺麗な瞬間に向けて準備をしている姿に自然の強さを感じた。
木が茂って事故も多くなんとなく暗い場所。
人に助けてもらわなくても桜を咲かせるぞ!
見てもらえなくても今年も咲くぞ!そんな意気込みが聞こえてきそうだった。

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気がついたら私は桜の開花状況を見るためだけにウォーキングをする一人になっていた。
私が桜の木々を認識してからは生憎の雨が続き厳しい季節との戦いだった。
咲いたと思ったらものの数日で雨に流されてしまい立派な桜の姿を見た人間は数えるほどしかいなかったのではないかと思えるくらい呆気ない幕引きだった。

それでも、厳しい自然の中で咲いて雨に打たれて流される花びらたちは凄く綺麗だった。
私は、お花見スポットのような観光場所にもよく出かけている。
その際に、レジャーシートを敷きやすい平坦な道に手をかけられて丁寧に咲いた桜を綺麗だと思っていた。

しかし、厳しい環境で誰からも見てもらえないかもしれない場所でも逞しく咲き潔く散った裏山の桜に胸を打たれ、雨に濡れる姿に一目惚れした。
小さい頃は誰しもが花や虫に触れて水や土で戯れ育ったのではないかと思う。

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大人になるにつれて、いつのまにか卒業してしまった自然と過ごす時間を田舎ならではで感じることができたための発見だったように感じる。
引っ越しに縁がある私があと何回この地で立派に咲かせた花を見ることができるかはわからないができるだけ長くその姿を見て変わる季節を楽しんでいきたいと思う。