ショートヘアが似合うと思っていた。
他人にも何度かそう言われたし、自分でもそう信じていた。

私には、短い髪のほうが似合う。
二十数年、そう思い続けていたのに、今私はものすごく久しぶりに髪を伸ばしている。

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はじめて髪を伸ばしたのは、中学校に入ってすぐの頃だった。
生まれてはじめてのちゃんとした「部活動」、そこで出会った「先輩」という存在。
憧れの「先輩」は、いつもロングヘアをふたつに分けて結んでいた。

先輩のまねをして、髪を伸ばし始めた。
肩まで髪が伸びたときは、うれしくて、先輩のようなふたつ結びをしてみた。

ただ、友達と一緒に撮りに行ったプリクラで、急に現実を突きつけられたような気がした。
プリクラの大げさな補正機能をもってしても、私のヘアスタイルは、憧れの先輩とは似ても似つかないように見えた。

ああ、私って、長い髪が似合わないんだ。

先輩のような、爽やかで大人っぽい雰囲気に見えなかった自分の姿に落胆して、一年も経たないうちに、私はまた髪を切ってしまった。

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二度目に髪を伸ばしたのは、新卒で会社に入った年。
正社員として働き始めたばかりの時期、忙しさにかまけて美容室に行くタイミングを逃していた。
私はSNSで何の気なしに「髪を切ろうかどうしようか、悩むなあ」とつぶやいてみた。
すると、とある知人から「切らないで」と返信があった。

その文面に、深い意味はなかったのかもしれない。
自分はロングヘアのほうが好きだから……というくらいの、軽口だったのかもしれない。
でも、その短い返信を見て、私は「また髪を伸ばしてみよう」と思い立った。

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今度は丸二年間、髪を伸ばし続けることに成功した。

中学生のときとは違ってもう大人になったのだから、自分でヘアケアグッズを買うこともできるし、難しいヘアアレンジに挑戦することもできる。
雑誌で見かけたトリートメントやヘアオイルを購入し、毎晩髪の手入れをして、朝は時間のない中、毎日違う髪型をするように心がけた。
不器用なのに何度も練習して、編み込みもできるようになった。

ただ、その間ずっと、「やっぱり私に長い髪は似合わないんだな」と思い続けていた。

どれだけがんばって手間をかけても、どことなく野暮ったく見えてしまう。
猫っ毛で毛量も多いので、編み込みをするのも大変だし、編んだ髪はすぐにほつれて、ふわふわと顔のまわりにまとわりつく。

結局、二年目の夏を目前に、「暑いから」という理由でばっさりとショートヘアに戻してしまった。

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あれから数年経った今、私の髪は肩甲骨まで届く長さになっている。
伸ばし始めたときは、誰に憧れたわけでも、声をかけられたわけでもなく、「また髪を結んでみたいな」というくらいの軽い気持ちだった。

そして、自分でも驚くことに、今の私にはロングヘアが似合っているのだ。
自分の容姿を否定する気持ちが薄くなったという、内面の変化もあるのかもしれない。
でも、以前経験した二回のロングヘア期には言われなかった、「長い髪も似合うね」という言葉を、他人から言われるようになったのも事実だ。

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私の見た目は、中学生の頃や新入社員だった頃と、さほど変わっていない。
変わったのは、「飾りすぎるのをやめたこと」だけだ。 

中学生の頃のように、ロゴや装飾だらけの服を着たり、新入社員の頃のように、しっかりがっつりメイクをしたりすることはなくなった。
ヘアアレンジもほぼしなくなって、髪はおろすか、黒のヘアゴムでポニーテールにするだけ。
「自分にとって余分だと思うこと」を削ぎ落して、シンプルな装いをするようになったら、ロングヘアは私の生活にしっくりと馴染むようになった。

余分なものを捨てて身軽に暮らすようになったら、髪を伸ばすことでプラスされる「重さ」のようなものが気にならなくなったのかもしれない。

自分の変化に驚きつつも、新しい一面に出会えたことが面映ゆくもあり、まだ当分、髪は長いままで過ごそうと思っている。