誰かのためは自分のために。思い出と共に33センチ髪の毛を切った

2022年夏、私は髪を33センチ切った。
「ヘアドネーション」という言葉を聞いたことがあるだろうか。「ヘアドネーション」とは、ヘア(髪の毛)とドネーション(寄付)を合わせた言葉である。小児がんなどの病気や事故等により髪を失った子どもたちのために、寄付された髪の毛を使用し、ウィッグ(かつら)を作り、無償で提供する活動のことを指す。私は約2年かけて大切に伸ばした髪を寄付することにした。
「ヘアドネーション」を知ったのは、テレビの番組で小学生の男の子が自分の髪を伸ばし、髪を寄付するという特集を見たことがきっかけだ。最初からヘアドネーションをしようと思っていたわけではなく、髪が綺麗に伸びてきたのでその延長でヘアドネーションに挑戦することにした。
私の髪の毛を伸ばすまでの経緯について紹介する。社会人になり、お金にある程度余裕ができたせいで、おしゃれのためにカラーやパーマなどで好き勝手髪の毛を痛めつけていた。そのため、日々のダメージが重なり私の髪の毛は乾燥してぱさぱさで、傷んで絡まっている状態だった。私はまめなお手入れなどが苦手であり、そしてズボラな性格も加速して、私の髪の毛はどんどん傷んでいった。
行きつけの美容院が閉業し、担当の美容師さんを追いかけて別店舗に行ったが、雰囲気がしっくりこず美容院を変えようと思っていた時期だった。そのため、前々から興味があった髪質改善をしようと思い、今まで行ったことのないプライベートサロンにドキドキしながら予約を取った。
プライベートサロンは、少し薄暗く高級感がある佇まいで、背伸びをしたようで少しソワソワした。これからは自分の髪を労わる気持ちで、月に1回髪質改善に通うことにした。毎月じっくりトリートメントをしてもらい、私の髪の毛はどんどんピカピカに艶めいて指どおりがするする通るようになっていった。
当時お付き合いをしていた彼氏も私の髪が綺麗になることを一緒に喜んでくれて、髪の毛を触る彼の優しい手がとても好きだった。
1年くらいその美容院に通ったが、私の転職も重なり、毎月通うことができなくなってしまった。そして、美容院に行かないまま半年が経過した。その半年の間に、髪を褒めてくれた彼ともお別れをすることになってしまった。一般的に失恋すると髪を切るというが、綺麗になった髪の毛が嬉しかったこともあり、切るタイミングを逃してしまいそのまま伸ばし続けていた。
そんな時に出会ったのが「ヘアドネーション」。最低ラインの31センチだが、40センチを目指して伸ばすことにした。髪が長くなるにつれて、様々なところに生活のしにくさが表れてとてもストレスを感じることが多い日々だった。
例えば、寝返りを打つ時に髪を下敷きにしていて引っぱってしまい目が覚めること、椅子に座っている時に背中と椅子の間に結んだ髪の毛が挟まっていることに気づかず頭が持っていかれてしまうこと、1本の髪の毛が長いため排水溝や掃除機に絡まりやすいことなど、挙げるときりがない生活の不便さを感じる毎日。ついに耐えられなくない、規定の2センチ程幅を持たせた33センチでカットしてもらった。
髪を切った後、体重が2キロくらい軽くなったように感じたが、気持ちが軽くなっただけで体重は全然減っていなかった。思い出と一緒に髪の毛を切った気がした。新しいボブヘアーは私の今までの服装の系統を変えるなど新しい変化を運んできた。気持ちの切り替えとともに、誰かの髪の毛になる私の髪の毛を思うと、人助けを通じて自分も助けられたような気がした。
また「ヘアドネーション」をやりたいかと聞かれると、 不便な生活を思い出してしまい迷うところもあるが、誰かのためが自分のためになることは私の中で大きな発見だった。好きだった彼の思いも一緒に置いてきた気がする。私の髪を寄付するまでの色んな気持ちが寄付した髪の毛に残っていないことを期待して、私はまた自分の生活に戻っていく。
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