私が夏生まれだからか、いつも何かを決断するのは夏のような気がする。
お盆の帰省で実家に戻り、子どもたちを母に預け、仲の良い学生時代の友人たちと「近況報告会」と称して飲み会へ。お酒を少し飲みながら、夫や家族の愚痴や子育ての話をしたけれど、私はどこか上の空だったかもしれない。

友人たちと別れたあと、私は勇気を出して夫に電話をかけた。
数回のコールのあと、彼は電話に出た。

少し子どもたちの様子や近況を話してから、「4月に子どもが入学するタイミングで、離婚したい」とても勇気を出して、言葉を吐き出した。
どこかで少しだけ、「そんなこと言わずに考え直して」と懇願されるのでは、という期待もあった。

けれど、沈黙のあと返ってきた言葉は、「酒を飲んだ人の話は聞きたくない」。

なんとも的外れな返事だった。夏の夜、蒸し暑い歩道橋の上。お酒の力を借りなければ言えなかった、あの言葉の重みを、彼はまるでわかっていなかった。

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私は、悔しさと怒りで泣きながら、タクシーに乗って実家に帰った。
離婚を切り出したことで、もし彼が泣いてすがってきたら、少しは考えてもよかったかもしれない。いや「絶対に離婚はしない。考え直してほしい」。その言葉が、ただ欲しかったのかもしれない。

でも、私の願いは彼には全く届かず、話し合いにさえならなかった。
彼が浮気をして、2年。「男は浮気をするもの」とどこかで思っていたけれど、実際にされると、何も信じられなくなった。

お互い本音も言えないまま、ただただ日々が流れていた。やり直せるかもしれないと感じる日もあれば、もうこれ以上、意味のない日々を重ねるのは無理だと思う日もあった。そんな毎日が、ただ忙しなく過ぎていった。

私は、彼女を知っていた。
なんなら「夏生まれ」だと、誕生日まで知っていた。
どうして人は、誕生日に「おめでとう」を伝えたがるのだろう。
当日じゃなくて、たとえ一日ずらしてくれていたらまだ彼女とつながっていることなんて、知らずに済んだのに。

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私は、彼女の誕生日の翌日に、夫の携帯を覗いてしまった。そんなこと、あり得ないと信じながらも。けれど、そこには「おめでとう」の文字があった。

その瞬間に思った。私と子どもたちでは、彼女に勝てないんだと。
今、私たちと過ごしている日々は、彼にとっての幸せではないんだと。
2年の歳月は、別れに向かっていたのかもしれない。

お互い「別れない努力」はしてきたけれど、その努力に、私たちはもう疲れきっていた。
「私たちと別れて彼女と一緒になれたらいいね」なんて、嫌みも言ってみたけど彼女に旦那さんがいてそんなことできるわけないと馬鹿にしていたのかもしれない。

あなたは、彼女を選んだ。でも彼女には、あなたを選ぶ気なんてなかった。
そう、思いたかっただけかもしれない。

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「夏だからできたこと」。
それは、「約半年先の離婚」を夫に告げたことだった。驚くほどあっけなく決まってしまった。あれから、もう15年近くたつ。

子どもたちの人生も、私自身の人生も、大きく変えた選択。
それでも私は、あの決断を、夏だったからこそできたのだと、今も信じている。