学生にとって夏は1年で最も長い休みが得られる季節だった。
冬休みや春休みなんかよりも長い休みだ。

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1ヶ月ある休みを有効活用したいと思いつつ、小学生の頃から予定を立てるのが苦手だった私は、ラスト1週間で宿題を終わらせようと必死だった。

小学生から高校生まで、長くも短い夏休みを過ごしていた私にとって、短大の夏休みは本当に貴重で無限の可能性を秘めていた。

そんな私は、夏になるとドライブに行くことが多かった。
「暑いのにわざわざ?」と思うかもしれないが、長期休みでしか出来ないドライブをするのだ。

季節関係なく、1日の中で一番気温が高くなるのはお昼頃。
大体正午から15時頃だと思う。

10代とはいえ、暑いのが苦手だった私はその時間帯はエアコンの効いた部屋でゴロゴロしていた。

短大生だった頃も、外に出るのは気が引けた。

だが、高校卒業後に行くのが面倒くさいと思っていた自動車学校をギリギリで卒業して何とか免許を取った私はドライブに夢中になった。

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免許を取る前まではバス通学だったのだが、混み合うだけでなく本数が少ないため、無理矢理乗り込まないと遅刻は確定した。

バス通学は高校で慣れていたものの、人混みが苦手で学校に行く気持ちを削がれる要因にもなった。

特に梅雨から真夏にかけての期間は地獄である。

大人になった今でも、出張で移動する以外はバスや電車は使っていない。
今も車移動が一番好きなのは変わらない。

話を戻そう。

夏の暑い時期はエアコンが効いた車内でYoutubeから流れる音楽を聴きながら、気ままにドライブを繰り返した。

目的地はない。

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ある時はひたすら山道を登っていった。
夕方に差し掛かった頃、道路を何かが横切った。
イノシシの家族。

普通ならビックリして悲鳴を上げたりするのかもしれないけど、動物好きの私は呑気に感動していた。あれが熊だったら話は変わっていたのかもしれないが。

ある時は川沿いに車を走らせた。
キャンプ場などもあって、キャンプを楽しむ人を横目に車を走らせた。

静かなところで窓を開けて、水の音や涼しい風を顔に浴びた。
途中で知らないうちにパワースポットの滝に辿り着いて、写真を撮ったりもした。

ある時は時間を決めてひたすら西に進んだり、南に進んだり、東に進んだりした。
自分の住んでいる県から2つも3つも進んだ県まで、高速を使わずに下道でのんびり走った。

時間を決めるのは、帰る時間が日付を跨がないようにするためだ。
中途半端に引き返すこともあれば、区切りよく帰路に着くこともあった。

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こんな事を、夏休みの間ひたすら繰り返した。

毎日とは行かないが、週に3〜4回はやっていた。
地元の人との会話を楽しんだり、ヒッチハイクに遭遇したりもした。

バイトはしていたが、バイト代はほとんどガソリン代になっていたと思う。
なので、お土産屋さんに行ってもどれを買うか何十分も悩んだりした。

夏休み明けに友人にドライブの事を打ち明けると、「何の意味があるの?」と不思議そうに聞かれた。

私は、「意味はない。ただ、長い休みを何かをする時間にしたかった」と答えた。

社会人になった今。
短大時代のドライブが何か活かせているかと言われれば微妙である。

ただ、あの頃の私は今よりもずっと充実していたと思う。

夏になると、川の音や変わりゆく街の風景が恋しくなる。

社会人になってからは目的を立てることが増えたと思う。
今年の夏、数年ぶりにドライブに出かけようかと手帳を開いた。