彼の住む福岡で、博多ラーメンやアイスを食べる。そんな夏が幸せだ

空港を降りて、博多駅に着くと、駅前には立派な「祇園山笠」が飾ってある。年間を通して7月前半のこの時期にしか観られないそうだ。
博多に来るといつも思う。九州は関東より梅雨明けが早く、空気もカラッとしてる。そして、関東が土砂降りの雨でも、雲ひとつない快晴が空を突き抜けている。
そんな九州での夏の夜は、中洲にいく。
中洲で、豚骨ラーメンやホルモン串をたらふく食べる。そんな博多グルメを食べていると、いつの間にか暑くなってくる。お店を出て、また博多駅に戻る途中、「暑いね〜」といってパートナーと腕まくりをしながら一緒に歩く。
「お家帰ったら、冷蔵庫にアイスがあるよ」とパートナーに言われる。
私たちは関東と九州の遠距離恋愛なので、会うのは一、二ヶ月に一回だ。
毎回彼の家にいくと、冷蔵庫に彼が出張先で買った各地のご当地スイーツが眠っている。
その種類が多ければ多いほど、「彼も働いていたんだな」と実感する。普通に買えば、数百円のそんなご当地スイーツでも、それがまるで、ご褒美のように彼の冷蔵庫にしのばせてあるのが、私はなぜか毎度嬉しい。
「〇〇が冷蔵庫にあるよ」と言われると嬉しくて、私もデートで彼と一緒にアウトレットに行った時、フードコートで九州の焼き鳥を4本買って、彼に「これ一緒に食べよう」とたずさえていく。
美味しいと思うものや、食べてみたいものを一緒に誰かと分け合える小さな喜びよ。
神戸プリンに生しらすに、鰹節アイスに、門司港ビールに……。こうして、あっという間に一年が経ち、いろいろな各地の季節のものを食べ、お互い遠距離で歳をとっていくんだなと思う。
大晦日に付き合い初めて、恋人として一緒に過ごした初めての夏。花火はまだ観ていない。かき氷も食べていない。海にももちろん行っていない。
でも、私は今のパートナーと一緒にイオンモールに行って買い物したり、彼の家でかちこちに凍らせた焼き芋にアイスをかけて食べたり、ウーバーイーツで近くのお店のラーメンを頼んだり、窓を開けて、九州の日差しを室内に入れながら、だらだら一緒に過ごすのが好きだ。
九州の夏は、陽が落ちるのも遅い。
博多で夜ご飯を一緒に食べて、特急でパートナーの家のある北九州に帰る。二人で九州鉄道を降りて、夜20時ごろに、ようやく鮮やかな夕焼けから夕闇のグラデーションが見える。それが、ちょうど「おかえり」と私達を出迎えているかのような綺麗さだ。
家の最寄駅で、またスーパーに行き、またまたカフェオレやアイスを買って、また家で二人で食べる。
それが1泊2日だったとしても、私はその時間が幸せだ。
もし、お互い関東にいたら——と思う時もある。関東で働く私の職場の、九州男児の先輩が、「週末に彼のいる九州に行く」というと、アポの移動時間の最中に、九州の知ると人ぞ知る美味しいグルメや居酒屋さんを教えてくれる。そして、密かに私たちの関係を応援してくれる。
彼は来年も九州にいる。来年こそは、私も有給をとって関門海峡の花火大会に一緒に行きたい。浴衣なんて着れなくていい。
私は、また博多駅で黙って髪をバッサリ切って夏らしいショートカットにして、博多で一緒に夜ご飯を食べようと待ち合わせしている彼を驚かせたい。
「うーん。似合ってるよ!」と短くなった私の髪を見てビックリした顔をしている今年の彼と、思わずその想いを精一杯言葉にしてしまった彼と来年も博多で出会って、そのまま駅近の居酒屋で刺身をつつきながら、一緒にビールを流しこむと思う。
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