忘れもしない大学1年の7月7日……七夕の日、私は名前と職業しか知らなかった彼と縁を繋ぐことができた。

高3の秋、私の家の近所で働いていた彼が新人として先輩について働いていたのを見た。

一目惚れだった。見た目も声もそして名前も。初々しい彼が細かい配慮をしながら仕事をしている様子を見て全てに惚れてしまった。
高校卒業までも大学に入学してからもたまに彼を見かけた。いつ見ても私にとっては彼はパーフェクトだった。

勝手な妄想を膨らませる日々。それはあくまで私の中の「勝手な妄想」に過ぎない……。私の視覚から確認できる以上の彼のことは何も知ることができず、なんだかすごくもどかしく、そのもどかしさが一層彼への想いを強めた。

◎          ◎

大学で初めて臨んだ前期の試験も終わって暑くなってきた週末の午前、妙な解放感を感じながら私は駅に通学定期の更新へ。その帰り、彼と同じ会社で働く会社のおじさんがまったり休憩しているところに出くわした。
「これ以上のチャンスはない」
そう思った。彼のことをもっと知りたい!
私は「すみません、○○さんっていらっしゃいますよね?結婚されてるかとか、ご存知ですか……?」自分の想像を超える質問が口から飛び出し、おじさんも驚いていたけど自分が一番驚いた。

おじさんは私の気持ちを察し、私の電話番号をメモに書かせ、本人に聞いてみると言ってくれた。想像以上の展開の早さに心臓が止まりそうになった。
ドキドキが止まらない。夕方、おじさんから電話があった。……しかし、彼本人の携帯からかけているので間髪入れず、彼に代わると言う。心の準備もへったくれもない。

電話口から紛れもない彼の声、動揺が落ち着かないまま辿々しく挨拶するとこれから会いに来てくれると言う。どうしよう!ますます心の準備が間に合わない。
彼は私の家の近所まで車で来てくれた。まるで夢の出来事のようにコトが進みふわふわしていた。話してみると共通点も多く、改めて彼と連絡先を交換した。

◎          ◎

そこから7年、少し距離が空いたこともありつつ、私たちは友達以上恋人未満の関係が続いた。お互い2人でいることが居心地がよかったのは間違いない。

私は知れば知るほど彼のことを好きになった。何となく相手もそう思ってくれていると思いつつ、でもただの自分の思い込みかもしれない、自信がなかった。

だからこそ一歩踏み込んでこの「居心地のよい関係性」が壊れるのが怖かった。きっとお互い。私と彼はそんな性格が似ていたからこそ、そう思う。

私たちのその関係が終わったのは彼が他の女性と結婚することになったから。
もう失うものは何もない、これで想いを伝えなかったら一生後悔する、タイミングとしては申し訳なかったが最後にメールで彼に今までの想いを告げた。彼も同じ想いでいたことを知った。嬉しい気持ちと同じくらい切なかった。
今でも思い出すと切なくなる気持ちは変わらない。でも彼を好きになれたこと、一緒に過ごせた時間はこれ以上ない宝物で全く後悔はない。
後にも先にもあんなに思い切った行動を取れたことはない。
あの夏の空気が私の背中を押してくれたからこそできたことに違いない。