大学生の夏休み、私は、1週間東京に滞在するという計画を立てた。

地方で大学生をしていた私は、東京に憧れる大学生でもあった。就職は東京ですると決めていたので、インターンと旅行を兼ねて東京に1週間滞在することにした。

親戚や友達といったツテはなかったので、ホテルをいくつか回って泊まりながら過ごすことになった。地方の学生にとっては、1日のインターンに参加するだけでも大掛かりだ。

インターン当日の朝から参加するために前泊は必須であり、2つほどインターンの予定を入れていたので、その期間は都内に泊まるほうがいいと考えた。交通費と体力の双方にとってメリットが大きいと思ったからだ。

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ここで少し勘づいた人もいるかも知れない。そう、1日のインターンに2つ参加したとはいえ、残りの5日は現段階でフリーだ。明らかに旅行に費やす時間のほうが多い。

そこは大学生の青さが見えるだろう。今思えば、マストでやることよりも、滞在している残りの日をどう過ごすか、に力を入れていたように思う。

この1週間の真ん中あたりには、大学の部活メンバーでディズニーランドへ行こうという計画も入っていた。計画された日は私がすでに東京に滞在している日だったため、私は現地集合、現地解散になった。

ディズニーランドへ行く日が近づくと、グループLINEも盛んになる。おそろいの服はこれでよいか、どんな服を合わせるのか、何時に行く、どんなところへ行く、さまざまなメッセージが更新されていく。すでに荷物を持って家を出ている私にとって、計画の変更はかなり痛い。時間の変更はあるにしても、服装の変更はないように、と願ってメッセージに既読をつけていた。

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田舎の大学生にとって、東京に一人で1週間居続けるというのはとてもチャレンジングなことであった。いつも家と学校の往復なので、家を空けることがない。ましてや実家暮らしだったので、この事を親に説明するのも面倒だった。

許可をもらったかは覚えてないが、インターンという名目で行かせてもらっていただろう。お土産を買ってくることで母の許しをもらったような気もした。

もちろんインターンにも参加した。惰性で行ったのではなく、ちゃんと就職試験を受ける可能性のある場所を2箇所訪れた。1日だけでは全容を掴みきれないが、こういう世界で働くのか、というイメージだけつけた、という感じだ。

実際に就職試験を受けたのは2つのうちひとつで、就職したのは違う場所になったが、このときの経験は大学生のあのときでなければできなかっただろうと思う。

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1週間東京に居続けることは、言わずもがな初めての経験だった。ホテルとコンビニを往復して、ペットボトルや食料を買い求めたときは、コンビニのビニール袋がパンパンになるくらい買い込んだ。手が痛くなり、袋に穴があいて、ホテルまでの数分の帰路がとても長く感じたのもいい思い出だ。

そのとき芸能人に似た人を見かけて、少し動揺しながら、ヤバい人だ、と思われているのだろうな、と感じたことも笑える思い出になっている。

駅に近いホテルを選んだおかげで、踏切がなかなか開かないという経験をしたこともあった。ホテルには簡易キッチンがついているところもあり、温かいご飯が部屋でも食べられるのだと気づいた。

一人暮らしの先駆けを感じられて、嬉しくなった。

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すべて1週間の中で感じたことだ。思い出もハプニングも盛り沢山で濃い1週間を過ごせたと思っている。

スーツケースを片手に、都内のいたるところをガラガラと歩いて周り、足りないものを買い足すために電車に乗って店に出かけたりもした。生活を味わった瞬間だ。スーパーにも行き、東京で暮らす疑似体験もできた。さすがにお金もたくさんかかったけれど、私にとっては必要な時間だった。後悔はしておらず、一人で暮らすことは楽しいと確信できた期間でもある。私にとってプラスでしかない時間だった。

田舎の大学生が夏休みだったからできた、東京1週間暮らしは、今も私の中で有意義な時間として刻まれている。