私はいつも汗だくだ。額、こめかみ、顎に伝う玉のような汗。文明の上に生きているとは思えないほどに、汗をかきながら日々を送っているのである。
現在、実家と彼氏の家の二拠点生活をしている。通院の関係で一週間ほど実家にいて、あとは彼氏の家で過ごす。
実家は駅に近く、どこかへ行くとなると電車に乗って移動することが多い。自動車免許を持っていないことがネックになる地方だが、駅近の家だったので特に不便を感じたことはなかった。あるとすれば「無免許」というプライドが邪魔をするくらいだろう。

しかし、彼氏の家は駅まで歩いて30分かかる。その上、家は急な坂の上にある。

行きはよいよい帰りはきつい。ちょっと重い買い物をすると、この世の全てを恨みたくなるほど息切れと汗の攻撃に見舞われる。
冬でも汗をかくほどの坂道で、足腰は鍛えられる。足の筋力がつき、スクワットの回数が増えたのは思わぬギフトだ。

◎          ◎

昨今の夏は異常な暑さである。子供の頃は30度くらいで暑いと感じていたのに、今は真夏は38度になる日もある。
携帯型扇風機を持っている人も増えたが、私は人工的な風があまり好きではない。だから扇子を携帯している。でも、扇子では対応できないくらい汗をかく日も多い。人工風に屈するのは正直嫌だが、そろそろ携帯型扇風機に手を染めることを検討している。

私はバスや自動車などの人工的な(?)乗り物も好きではない。自転車は自分の脚でこぐのでまだマシだが、メカニカルなものが苦手なのかもしれない。
自分の肉体を機械に委ねることが末恐ろしいと思う。それを言い出したら電車も同じだが、電車は快の方が勝つ。レールの上を走るという安心感があるからだろうか。人生は敷かれたレールも不安定な上、ことごとくはみ出してきたというのに全くおかしな話だ。

◎          ◎

そんな私も先日、あまりの暑さにバスに乗った。7月に入ってまだ少ししか経っていないのに、8月後半のようなゆでだこ具合にさすがに耐えられなくなった。
結果、めちゃくちゃ快適だった。今までどんなに暑くても30分かけて駅まで歩いていたのに、これを覚えてしまったらもう元には戻れない。

汗で化粧が落ちることを気にしなくて良いし、10分で着くし、疲れない。バスに乗ったというだけで、「人間は『快適さ』を追い求めて文明をここまで発展させてきたのだろう」という確信めいた考えに至ったほどだ。

しかし、バス停は坂の下なので結局どんなに辛くても坂は上がらないといけない。崖の上のポニョならぬ坂の上のみゆうだ。せっせこせっせこ駆け上がり、私にとっての宗介の元へ帰るのである。
このまま気温が上昇し続けたら、流石に徒歩生活を続けるのも難しくなるだろう。そうなるとやはり自動車免許を取得したいところだが、自分の思想と便利さとのせめぎ合いに悩まされる。また、過去に教習所でのS字クランク脱輪体験がトラウマになっているので、再度挑戦することはしばらくないと思う。

◎          ◎

となると、やはりバスを利用することが最適解だ。滝のような汗を小川のせせらぎ汗に留めてくれるのはありがたい。
あと、バスの運転手さんの運転技術を地味に尊敬している。数車線ある駅前であんなにスムーズに、十数人の人間を乗せて巨大な乗り物を操縦しているというすごさ。普段みんな当たり前のようにバスを利用しているけれど、運転手さんは本当にすごいのでもっと注目されてもいい存在だと思う。
おっと、話が脱線してしまった。私は滝汗生活から脱し、小川汗生活になる予定だ。額からこめかみに伝う小川のせせらぎに、風流を感じてみたいと思う。