現代人に足りない「感情放出機会」。だから私はライブへ行く

最近の私には好きなアーティストがいる。心を押し殺しながら日々社会に繰り出していく私を支え、寄り添い、時に奮い立たせてくれる、居てもらわなくてはならない相棒みたいな存在だ。
もちろんライブにも足繁く通っている。目を皿のようにして動き回る彼らを追いかけ、痛くなっても手を叩き、身体を揺らし、一緒に口ずさみながら爆笑してボロボロ泣く。だからライブが終わる頃にはへとへとのふらふらだ。汗だくになって、情緒不安定になりすぎて疲れ切るくらい、彼らの音楽の力を全身に浴びて吸収して、そして現実に戻る。学生時代よりよっぽど青春してるよなあ、と近頃思っている。
ライブに行くのが趣味、という人は一定数居ると思う。学生時代もゼミの中で3分の1くらいの人がそうだった。社会に出てからも同じくらいの割合で遭遇する気がする。
とはいえ、ライブに行く理由は人さまざまだろう。「なんでライブに行くんですか」なんて面と向かってアンケートしたことも、統計を取ったこともないから世間一般はわからない。でも私にとってライブは「感情放出機会」である。
彼らと一緒に歌うと、心の中にぎゅぎゅっと押し込めていた私の感情が息を吹き返していくのがわかる。あぁあの時こんな気持ちだった、あんな気持ちだった、と自分の感情を認められるのだ。時に歌詞と一緒にワッと感情が飛び出して、ぐっちゃぐちゃになって、それからちょっと身体が軽くなる。年に何回かの、とびきりのデトックスなのだ。
感情を溜め込んでしまうのは心身によくない。だからもっと頻繁に発散した方がいいんだと思う。けれど現実にはなかなか、ライブ…までとはいかなくても、感情を出していい機会がない。ビジネスシーンでは「社会人」として常に冷静沈着に、どんな相手ともうまくやって、さらには成果を出すことまで求められる。ちょっとくらいなら感情を出しても笑って流してもらえるかもしれないが、うっかり出力を間違えると途端に眉を顰められる世界だ。
なので私も仕方なく、頑張って澄まし顔で「社会人」をやっている。でも本当はテンションがブチ上がることも、めちゃくちゃムカつくこともある。すごい人を全力で褒め称えたい日も、嫌いな人に心底我慢できなくなる日もある。それを全部きれいに出さずに生きていくのって、すごく生きづらい。つらい。
そうして無理が出るから、私はライブに行って感情をたっぷり出して、また何とか現実に戻るんだと思う。
たまに生きづらそうな人を見かけると「一緒にライブ行かない?」と声を掛けたくなる。さすがに実際にやったことはないが、喉元まで衝動がせり上がってくる。
いや、私は単純に推しを全力布教したいオタクなだけなのかもしれない。でもやっぱり我々にはもっと、感情を思いっきり発散する機会が必要だと思うのだ。発散しないと無理が出るから、電車で舌打ちしてしまうし、心身を壊す人だって出てくるんだぞ。
だから私は今日も胸の中で、声を大にして、全世界に向かって「みんなライブいこうぜ!」と叫んでいる。
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