好きなアイドルの曲に励まされ、背伸びすることで得た世界

世間の人が好きなアイドルの曲を聴くタイミングって、何時ごろが多いのだろう。わたしの"タイミング"は朝だ。それも、早朝。曲を聴くときに思い出される景色は、夜明け前か朝焼けだ。
わたしが早朝に起きる日は基本的に二択で、とても楽しみな予定がある日と、気合をいれてがんばる必要がある日。そして、後者が圧倒的に多い。がんばらなくちゃいけないときに元気をもらう。いたってシンプルな生き方だと思う。
志して、ながく携わりたいと思っている分野がある。その分野で著名な教授がわたしの通う大学にいることは知っていた。ただ、殿上人すぎて関わる機会などないか、あったとしても遠い未来だと思っていた。
数年前のある日、サークルの先輩に言われた。「実習で教授と喋る機会があったから、残星ちゃんが先生の分野に興味あるって言っちゃった。そしたらさ、会って話したいって言うんだよ。どう、会ってみたら?」。
人生には3つの坂がある、から始まる有名な言葉のうち「まさか」を体感した気分だった。恐る恐る教えてもらった連絡先にメールした。直接会って話す予定が立った。その時点で震えるくらい緊張した。
会う直前の数日間、時間を問わずずっと、おまもりみたいに聴き続けていた曲があった。好きなアイドルはその曲について「聴き終わったあとに何故か肩の力が抜けて楽になる、おまじないのような歌」と綴っている。何回聴いても肩の力は抜けないし、全然楽になんてならなかったけど、確かにその曲に縋って朝焼けの中バスに乗って、教授室の扉の前に立った。
その教授に勧められて初めて行った学術集会は、雰囲気に圧倒されているうちに終わった。家から通える距離だったから朝早くに家を出て、とはいえ電車に乗っている時間は長かったから曲を聴きながら仮眠をとった。
そのときに聴いていた曲を今聴くと、ぼんやりとした朝の光の記憶と、あのときから経った時間を想う。あっという間で、思っていたより濃密で、勇気を出して手を伸ばしてみた人との縁に手を引かれてきた数年。教授以外誰も知り合いがいない心細さとは今はもう無縁だし、学会における役割も様々(ブース出展まで!)経験した。いろんな地方に行った。地方に行くときも朝が早いことが多いから、よく好きなアイドルの曲を聴きながら会場に向かった。
今この文章を綴っているわたしは明朝の電車に揺られていて、変わらず志してつづけている分野の学術集会に向かっている。ありがたいことに瞬く間に何人にも増えた知人にあいさつもするし、お食事もご一緒するし、驚くことに登壇もする。
正直、どれもこれも身の丈に合う気は全くせず、気合を入れてがんばらなくちゃいけない。特に登壇なんて、ずっとずっと先のことだと思っていた。学生のうちに登壇を何回も経験させてもらえるのは貴重だと知っている。無理をしていると言われたら納得する。現に、緊張して全然眠れなかった。
でも、わたしには昔も今も、背伸びをしてでもやりたいことがある。そして、今日も相変わらず好きなアイドルの曲と生きている。人生に大好きな楽曲たちがあることが、わたしを元気にして、ちょっと背伸びさせる。
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