似合わないと分かっていたのに、どうしても諦めきれなかったワンピース。
このワンピースは、私に「幸せとは何か」を教えてくれた。

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学生時代、パーソナルカラー診断や骨格診断が流行り始めた。周囲の女子学生たちの中では、私はイエベとか、骨格ウェーブだったとか、そんな会話が常に繰り広げられている。その会話を聞いているうちに私も診断に興味を持ち、友人と一緒に普段は行かないであろう都内の綺麗なビル街へ、診断を受けるために向かった。そして診断の結果「あなたはブルベ冬、骨格ストレートね」とパーソナルカラーリストの綺麗な女性から言われた。

パーソナルカラー診断と骨格診断を受けると、コスメや服を買うときに迷いにくくなると言われている。自分に似合う色や服の系統をプロが教えてくれるため、似合う似合わないの判別が自分でできるようになるからだ。確かに、現在は今までの買い物時間の二分の一くらいで済んでいる。気になる商品があったとき、商品を手に取らなくとも似合う似合わないの判断が瞬時につくようになったのだ。

自分に似合うものを選べるようになった反面「欲しい!」を諦めるようにもなった。目を引くデザインの服があっても「この形は私には無理だな」と試着する前に諦めてしまう。可愛い色のリップがあっても「私には不似合いの色だ」と、遠目で見て断念する癖がついた。今までは「私に似合うかな、どうかな?」とドキドキした、アトラクションに乗る前に似た気持ちを胸に買い物を楽しんでいたのに。自分に似合うものがわかるようになった現在、その気持ちは消え失せてしまった。

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先日、夏服を買うために友人と都内へ向かった。欲しい服は決まっておらず「自分に似合いそうな服があったら買おう」くらいの気持ちで、ふらふらとショッピングビル内を徘徊していた。

立ち並ぶ店を片っ端から見て回っていたが、これ!と言う服に出会えず今日は諦めようとしていたそのとき。出会ってしまった。一目見ただけで引き込まれた。よくモデルさんが「一目惚れして買っちゃったんです」と言うセリフを口にするが、まさにその感覚。

それはくすんだ水色の、ロングシフォンワンピース。ブルーが大好きな私にとって、心のど真ん中に刺さる色だった。そして形もふわふわした可愛らしいシフォン型で、風にそよそよとなびく可愛らしい姿が想像できた。

私の心が「これは買うべき!」と叫んでいる。だが、色も形も私の骨格とパーソナルカラー的にはアウトだった。ブルベ冬にはくすみカラーはNG、骨格ストレートにシフォンワンピースはご法度。パーソナルカラーリストさんから言われた「くすみカラーとシフォン型は絶対ダメよ!」と言う言葉が脳の奥底から急激に引き出される。欲しいなら買うべきと、似合わないのに買うの?と言う葛藤が、頭の中を延々と駆け巡っていた。

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ひと通りの買い物を終え、友人と夕食を済ませたあと自宅へ帰宅した。私の左手には白色の可愛らしいショッピングバッグが下がっている。バッグの中に入っているのは……くすみブルーのシフォンワンピースだった。

どうしても諦められなかった。自分に似合わないとわかっていても、それでも一目惚れの気持ちを振り切ることはできなかった。

似合わないと分かっていたから店で試着はしていない。だから自宅についてすぐ、鏡の前でワンピースに袖を通してみる。

……やっぱり似合わない。パーソナルカラーリストが言った通り、顔はくすんで見えるし、骨格が強調されてシフォンの可愛さに目がいかなくなる。だけど鏡の中の私は、口角が上がってニコニコとしていた。似合う似合わないに一喜一憂するのではなく、自分の好きと一緒に居れて「幸せ」と言った表情。

一目惚れしたワンピースは似合わなかったけれど、それでも自分の気持ちが明るく、幸福に包まれるのなら。「似合わないから」で好きなものを諦めなくてもいいのではないか。と、そう気づいた。

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このワンピースは外に着ていくことはないけれど、私の部屋の部屋の一角に、キラキラと輝きながら飾られている。