遠く離れた東京で、職場外で職場の人に会いたくない私が先輩を誘った

私は当時、その職場では2年目で、ようやく仕事もある程度できるようになり、周りの人とも雑談ができるようになった頃だった。
とはいえ、私は職場の人とはビジネスライクな関係で一線を引いていたいタイプで、職場外で職場の人には会いたくないと思っている。食事会や女子会の話になればそれとなくフェードアウトしたり、話を逸らして避けたりするほどだ。
自ら職場の人をどこかへ誘うことも、もちろんない。
なかった。
台風一過の晴天の下、職場の先輩と奇跡のような偶然を感じるまでは。
それも地元から遠く離れた東京で。
それは、何気なく送った1枚の写真がきっかけだった。
台風といえば秋のイメージだったが、近年は夏に日本列島に接近する台風が増えている。
毎年お盆のイベントが台風でなくなったり、ギリギリ開催できるかという瀬戸際になる様子を見ているため、特にお盆に列島横断をする台風が多いと感じている。
その日もお盆の頃で、友達と東京のイベントに行った日だった。私の地元から東京に行くには距離があるため、新幹線を予約していたのだが、1週間前から台風の接近が危惧されていた。
職場でも台風は話題となっており、無事に新幹線が動くだろうか、東京へ行けるだろうかと私はとても心配していた。
ちょうど職場の先輩も私が東京へ行く1日前に東京で泊まる予定だったらしく、2人で台風の進路や進み具合をチェックしてはハラハラとしていた。
実際は、私達が乗る予定の新幹線は止まることなく各々の予定通り東京へ行くことができた。
私よりも1日早く東京へ着いた先輩は、雨風の強さなど、様子を連絡してくれた。だから、私が東京に着いた際も無事に着いたことを連絡しようと思った。
その日の空は台風一過後の快晴でとても綺麗な青空だったから、写真の1枚でも添えようと思い、何気なく街並みとともに写真を撮って送った。
その返信は「すぐ近くにいます」。
後に聞けば、その写真に写っている建物内にいたらしい。
私はその時、先輩がどこにいるかは知らなかった。いや、どの辺りに行く予定かは多少聞いていたが、特に気に留めていなかった。よくよく考えれば、私が友達と行こうとしていたカフェがある場所ではあったのだが、全く気づいていなかったのだ。
だから狙ったわけでもなく、報告として写真を撮って送っただけなのだが、そんな返信が来て驚くと同時に、なんとなく縁を感じた。
職場外で職場の人に会いたくない私が、先輩をカフェに誘った。
もちろん、友達にも許可をもらって。
あの時の私は、無事に東京へ行くことができた安心感と、快晴の空と、夏の暑さと、あと思いがけない偶然に縁を感じてハイテンションだったのだろう。
夏の暑さは人を大胆にさせるというし、夏だからこそできた行動だったと思う。
誘ってから唐突すぎたなと申し訳なく思って後悔したのだが、先輩はさらっと来てくれた。5分くらいで。本当に近くにいたことを実感した。
同じ職場で顔を合わせている人と職場外で、さらに職場から遠く離れた東京で完全なオフ状態で会えた偶然は、やはり不思議な巡り合わせを感じた。
もっと言えば、飲み会以外で職場外で職場の人に会うのはそれが初めてだった。
カフェで話したのは1時間程度だったが、とても楽しい時間だった。
これ以降、その先輩とは、機会があればご飯を食べに行くようになり、かなり仲良くなった。
未だに職場の人とはビジネスライクでいたい私の性質は変わっていないのだが、その先輩だけは例外となった。
あの夏の奇跡のような偶然とそれに感化されて起こした普段と違う行動から、先輩との距離が縮まった、夏の日の思い出だ。
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