8か月間のフランス留学。

ずっと夢見ていた場所だった。子どもの頃から、いつかフランス語を習得して、この自由な国に行くんだと決めていた。

なのに、渡仏してから最初の数か月は、ひどいホームシックに悩まされた。

◎          ◎

1か月の短期研修では一切感じなかったのに、「もし家族になにかあってもすぐには帰れない」と思うと、胸がぎゅっと潰されるような感覚に襲われた。
ずっと憧れていた土地に、ようやく来ることができたのに。なにをしているんだろうという情けなさに押しつぶされそうになった。

授業の内容も、思った以上に難しかった。周りはフランス語を母語としない学生たちばかりだったけれど、みんな堂々としていて、自分だけが取り残されているような感覚があった。
「何のために来たんだろう」
「せっかく来たのに、なにもできていない」
そんなふうに自分を責める日々が続いた。折り返し地点が見えるころまで、心の中にはずっともやもやがあった。まるで出口の見えないトンネルの中にいるようだった。

◎          ◎

そんな日々から抜け出すきっかけになったのは、あるホームパーティへのお誘いだった。
Facebookでつながったものの、その後とくにやりとりのなかった現地の知り合いから届いたイベント招待。
当時の留学先では、Facebookのイベント機能を使った「知り合いの知り合いくらいまでOK」みたいなオープンな飲み会がよく開かれていた。

「あまりよく知らない人の集まりに一人で行くなんて…」と、いつもの自分なら躊躇していたと思う。でも、その日はなぜか、「行ってみよう」と思えた。

◎          ◎

飲み物か食べ物を持ち寄るよう案内に書かれていたので、通り道にあるスーパーで2リットルのペットボトルのジュースを買った。アパートのインターホンを押すと、出てきたのは知らない女性だった。家主ではない彼女は、自分の家のように笑顔で迎え入れてくれた。

中にはぽつぽつと人がいて、主催者もすでに談笑していた。
「どこから来たの?」「何しに来たの?」
そんなふうに話しかけられる中で、たどたどしくても会話が成り立つこと、輪に入れることが、すごく嬉しかった。

自分で「行ってみよう」と決めて、知らない場所に飛び込んでみたこと。
その経験が、私にとっては小さなターニングポイントだったと思う。

◎          ◎

それ以降、私は少しずつ外に出るようになった。
一人でカフェに入ってみたり、マルシェで店主と会話してみたり。現地の友人たちと夜通し遊ぶことも増えた。
まとまったお休みには格安航空を使って隣の国にも行った。ホステルに泊まり、同室の人と仲良くなって翌日一緒に観光することもあった。

「なんだ、全然できるじゃん」

そんなふうに、少しずつ自信がついてきた。気づけば、前を向けるようになっていた。

◎          ◎

ホームシックで内にこもっていた日々を、「無駄じゃなかった」なんてきれいごとは言えない。
やっぱり、「もったいなかったなぁ」と思う。
でも、あのトンネルの先に「外に出る」という選択肢を自分で見つけられたこと、それを実行できたことは、今も小さな自信になっている。

目の前が真っ暗になるときは、きっとこれからも何度もあると思う。
そんなとき、自分がフランスであの扉を開けた日のことを思い出して、「とりあえず外に出てみよう」と思えたら、きっと大丈夫。