「将来の夢」と言いつつ、国に税金を収める手段を短冊に書かされて、ずっと違和感があった。

「夢」って言うのは例えば消防士とか漫画家とかサラリーマンとかパティシエとかだったり。でも全部目的は同じで「お金を稼いで生活をするため」。夢っていうのは手段でしかない、そんな手段に希望を持つなんて不可能だと、高校生の時は本当に思っていた。

今もちょっと思ってるから、周りが就活に向けてガクチカを作り出している現状も一旦置いといてる。3年生になったらどうせやらなきゃいけないから、まだやらない方がいい。どうせやるし。

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私はとにかく「志望」を出すのが遅かった。ちっちゃい頃から優柔不断だったこともあって、行きたい高校をひとつに定めて自分の口で「ここがいい」と言ったのは秋頃だったし、大学受験の時はもっと酷かった。

大学受験に向けて、見えない未来を睨んでいた話をしようと思う。高校二年生で受ける模試に志望校を書く欄があった。私は行きたい大学どころか、学部も決めてなかった。ぼんやりと数学ができないから文系、ということだけが決定事項だった。私は悩みに悩んで、スマホのルーレットアプリに「文系 学部」と検索してでてきた学部を一通り入力した。ルーレットを5回まわして、止まった学部を5つの志望校欄を埋めた。本当に先のことなんて考えられなかった。

来年の私がとか、1ヶ月後の私がとか、明日の私がとか、何も分からなかった。やりたいこともなければ、向いていることも分からなかった。大学に行っても高卒働いても、最終的に社会歯車になって働くことは確定なんだから、受験なんて意味が無いと思ったりした。そう思う自分が嫌で、もういっそ死んだ方が何も考えなくて済むしいいのかなとかも思った。

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でも、一つだけ、本当に一つだけやりたいことがあった。でもそれは、随分とちっぽけで、誰にも言えなかった。ずっと塾でバイトがしてみたかった。中学生の頃、私に3年間英語を教えてくれた、苗字しか知らない塾の先生にずっと憧れてた。それに私の人生の統計上、大人と話すのは上手くいかなかったけど、年下と話すのは楽しかった。だから塾で働きたかった。

でもこんなのは夢じゃない。ただのアルバイトで、どこの大学に行ったってできること。大学の志望理由にするには弱すぎていた。

結局、消去法で選んだ大学に進学できた。中のちょい下くらいの大学。大学の入学金を振り込んで真っ先にしたのは、バイト探しだった。でもその時には塾で働きたいなんてことはすっかり忘れていて、バイト探しのアプリで大学生っぽいアルバイトの募集を眺めていた。

通帳を作らなきゃけなかった関係で、私のアルバイト探しは一時中断。高校の卒業式も終わり、時間を持て余していた私は当時、散歩が趣味だった。住み慣れた地元の町を目的なくひたすら歩く。これがなんだか楽しかった。目的がないことの方が自分に向いている。そしてなんのきっかけもなく、突然、高校生の時に自分が塾で働いてみたいなと思っていたことを思い出した。

そこからはトントン拍子で進んでいった。自分の人生の目的も未来も分からなかった私が、見知らぬ生徒に勉強を教え、生徒の未来を担っている。そんな生活も2年目に突入した。生徒に愛されて、こんなに人から感謝されて、なんだか夢みたいだなと思いながら、今日も授業をする 。あの時の気持ちを思い出せてよかった。