大学最後の夏、衝動で飛び立ったハワイが私の人生に豊かさをくれた

大学4年生の夏は、人生の分岐点のような季節だった。就職活動という長いトンネルをようやく抜け出し、残された学生生活への焦燥感と、新しい何かを始めたいという衝動が心の中で渦巻いていた。
ある日、SNSでたまたま見かけたハワイの写真に心を奪われた。青く澄んだ海、輝く太陽。そのまま衝動的に一人分のハワイ行きの航空券を衝動的に予約していた。友人たちは「一人で大丈夫?」と心配してくれたが、なぜかその時の私には迷いがなかった。一人旅なんてしたことがないし、ましてや海外。夏という季節が持つ特別な魔力が背中を押してくれたのかもしれない。
羽田空港から飛び立つ飛行機の中で、私は窓の外の雲海を眺めながら複雑な気持ちに包まれていた。不安と期待が交互に押し寄せる長い飛行時間。しかし、不思議なことに不安よりもワクワクした気持ちの方が勝っていた。これから始まる未知の体験への期待が、心臓の鼓動を早めていた。
ワイキキのビーチに立った瞬間、すべての不安は消え去った。青い海と白い砂浜、そして心地よい潮風。一人旅は寂しいものだと思い込んでいたが、実際は全く違った。誰にも気を遣う必要がなく、自分のペースで海を眺めたり、マリンスポーツを楽しんだり、ショッピングに興じたりできる自由さは、想像以上に心地よかった。この体験が、後に私の思いがけない趣味となる一人旅の始まりだった。
そして、もう1つの運命的な出会いがあった。ホテルのロビーで偶然目にしたフラダンス。
踊り手たちの優雅な動きと、ハワイアン音楽の調べが織りなす美しい世界に、私は完全に魅了されてしまった。手の動きひとつひとつに込められた意味、風や波を表現する身体の流れ。それは単なるダンスを超えた、ハワイの文化そのものだった。このときは、ただ見とれていただけだったけれど、心の奥に、静かに「やってみたい」という想いが灯った。
その後社会人になり、自宅と職場を往復する日々の中で、友人から「一緒に何か習い事を始めない?」と誘われた。料理教室やヨガ、そんな候補の中で、なぜか口をついて出たのがフラダンス。ずっと心の奥でくすぶっていた「やってみたい」という気持ちが、ついに表面に現れた瞬間だった。
あれから8年が過ぎた。仕事をしながら続けてきたフラダンスは、いまや私にとってかけがえのない趣味となった。今では素晴らしい仲間たちに恵まれ、数多くの舞台に立つ機会をいただいている。ステージの上でスポットライトを浴びながら踊る時、あの夏のハワイで感じた感動が蘇る。ダンスの技術も随分上達し、フラの奥深さをより深く理解できるようになった。
振り返ってみると、あの大学4年生の夏がなければ、今の私はなかっただろう。あの夏、勢いだけで飛び出したハワイが、私の人生にこんなにも豊かな時間をもたらしてくれるなんて思いもしなかった。
一人旅という新しい世界への扉を開き、フラダンスという生涯の趣味を見つけることができた。夏という季節が持つ特別な力が、臆病だった私を勇気ある行動へと導いてくれたのだ。
時として人生を変える出来事は、計画されたものではなく、季節の魔法に背中を押された衝動的な決断から生まれるものなのかもしれない。ほんの少しの衝動と、背中を照らしてくれる太陽があれば、人生は思いがけず動き出す。
就活を終えて、自分にご褒美をあげたくなったあの頃の私に、ありがとうと言いたい。
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