今年の夏は、私にとって特別な意味を持っている。というのも、今付き合っている彼と過ごす“カップルとして最後の夏”だからだ。

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人生の次のステージに向けて進むことを決めていて、長く付き合ってきたけれど、「彼氏」「彼女」という関係でいられる時間は、実はもうわずかしか残っていない。だからこそ、「夏らしいこと、全部やろうね」と二人で決めた。海、プール、夜のツーリング……いろんなプランを立てる中で、彼がふと提案してくれたのが“ラフティング”だった。

正直、私はアウトドアが得意な方ではない。インドア派と言うほどでもないかもしれないが、アウトドアの経験は学校のイベントくらいでしかない。

彼と付き合って昔プールには行ったが、それ以外で水のアクティビティは初めてだ。「夏しかできないし、二人の思い出に残ること、やってみよ」と彼に言われて、わくわくとドキドキを感じながら挑戦してみることにした。何より、「人生初」っていう言葉に、心がくすぐられた。

当日、朝早くに家を出た。非日常感がずっとあってわくわくした。集合場所でライフジャケットとヘルメットを身につけた瞬間から、胸の高鳴りが止まらなかった。周りの参加者には経験者から初めての人まで様々で、皆どこか楽しみだけど、緊張した表情をしていた。そんな中、フレンドリーなガイドさんの冗談交じりの説明に笑いながら、少しずつ空気が和らいでいった。いざゴムボートに乗り込み、パドルを手に持つと、「いよいよ始まるんだ」と身体の芯がピリッと反応した。

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最初のうちは、ゆるやかな流れに身を任せて、周囲の自然を楽しむ余裕もあった。でも、コースの中盤に差しかかる頃には、目の前に迫る激流に心臓がバクバク。ガイドさんの「前漕ぎー!」の声に合わせて、私たちは必死にパドルを動かした。水しぶきが顔にかかり、ボートが跳ね上がるたびに叫び声と笑い声が混ざった。まるで冒険映画のワンシーンに飛び込んだみたいだった。

そして、コースの終盤。突如目の前に現れたのは、3メートルほどの岩場だった。「ここからジャンプしますよ〜!」とガイドさんが言った瞬間、私は一歩引いた。こんな高いところから飛び込んだことなんて、一度もない。足がすくんでしまい、何度か「無理かも…」と思った。でも、隣で彼が「一緒に飛ぼう」と手を差し伸べてくれて、さらに他の参加者たちの「がんばれー!」という声援が背中を押してくれた。

思い切って飛んだ瞬間、空と水の境目が一瞬消えたような感覚があった。着水したあと、頭から足の先まで冷たい水に包まれて、息をのむ。でも、水面から顔を出して彼と目が合った瞬間、言葉にできない達成感が込み上げてきた。「やったね!」と笑い合ったその一瞬が、この夏の、いや、この関係の宝物のように思えた。

夏だから、こんな無茶ができた。夏だから、思い切って飛び込めた。もし秋や冬だったら、同じことができたかどうか、自信はない。でも、太陽の光と蝉の声と、水の冷たさが背中を押してくれた。この季節の魔法みたいな力に、私は感謝している。

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きっと来年の夏、私たちは夫婦としてまた新しい季節を迎えていると思う。今とは違う呼び方で、違う絆で結ばれながら、少しずつ歩幅を合わせていく日々が始まる。その前の「最後の夏」は、たくさんの笑いと少しの怖さ、そして飛び込む勇気で彩られた。

あのジャンプの瞬間に感じた、ほんの少しの恐怖と、それを越えた爽快感。この夏だからできた体験が、これからの人生で何かに迷ったとき、「大丈夫、あのときだって飛び込めたじゃない」と、私の心を支えてくれる気がしている。