「なんでベトナムだったの?」
大学3年のときにインターンシップ留学をしていた私に、何度も聞かれた質問だ。

今でこそ胸を張って理由を語れるけれど、当時の私は、ただがむしゃらに、自分を変える何かを探していた気がする。

だからなんで?って聞かれても、答えに困ってしまっていた。

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大学生活にも慣れ、バイトとゼミを淡々とこなす日々のなかで、「このまま就職活動に流されるのは、なんか違う」と、モヤモヤしていた。

そんなある日、学外開催されていた就活系のイベントで出会った、一人の学生がいた。目の奥がすごくキラキラしていて、話す言葉の一つひとつに自信が宿っていた。聞けば、彼はベトナムでインターンシップを経験してきたという。しかも、現地の企業で実践的な仕事をしながら、自分の弱みと、そして他者と向き合ってきたと話してくれた。

彼の話を聞いているうちに、羨ましさと同時に「私も飛び込みたい」という衝動が湧いてきた。

これが私と、ベトナムのインターンシップ留学との出会いだった。
出会ってから参加を決めるまでに時間はかからなかった。

興味を持った私はすぐに調べて、ホイアンで行われる実践型インターンに応募。周りはゼミやインターンで忙しくしている中、私は「このタイミングしかない」と自分に言い聞かせた。年末年始の年越しもクリスマスもインターンシップに捧げた。

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初めての東南アジア。到着してすぐに感じたのは、街全体が“生きている”という感覚だった。バイクのクラクション、露店の活気、現地の人々のエネルギー。空気が濃く、音も匂いも鮮やかだった。

私が配属されたのは、日越のビジネスをサポートするスタートアップ企業。スタッフはベトナム人が中心で、共通語は英語。最初は自己紹介さえたどたどしく、毎日が緊張と不安の連続だった。

けれど、驚いたのは彼らのオープンな姿勢。英語が拙くても、わかろうとしてくれる。むしろ、文化や考え方の違いを面白がってくれる。その空気に救われて、私も少しずつ、間違いを恐れずに話せるようになっていった。

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ある日、現地企業に向けて行うプレゼンがあった。

資料作成から発表まで、ほぼ自分たちで準備。けれど本番では緊張で英語がうまく出てこず、途中でつっかえてしまった。終わったあと、悔しさでいっぱいだった。

そんなとき、同じチームのベトナム人スタッフが私にこう言った。

「大丈夫、ちゃんと伝わってたよ。あなたの目を見れば、どれだけ真剣だったかわかるから」
その言葉に、救われた。自分の“未熟さ”にばかり目がいっていたけれど、「伝えたい気持ち」が何より大切だと、初めて実感した。

文化の垣根が低くなった瞬間だった。

生活の中にも、忘れられない瞬間がたくさんある。市場でジェスチャーだけで買い物した日、屋台で現地の学生と語り合った夜、突然のスコールにずぶ濡れになって笑い合った午後。全部が、教科書では学べないことばかりだった。

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留学から帰国したとき、日本の静かさに戸惑った。でも、それと同時に、自分の中の“芯”が少し太くなっているのを感じた。

自分の言葉で伝えること
失敗を恐れず挑戦すること。
仲間を信じて協力しようとすること
そして、知らない世界を楽しむこと。

ベトナムでのインターンシップは、単なる海外経験ではなく、「自分自身と正面から向き合う時間」だったと思う。

今、私は社会人として毎日働いているけれど、ふと迷ったとき、ホイアンでの熱気を思い出す。

そのほんのりとした記憶は、いつだって小さな一歩に躊躇している私に踏み出す勇気をくれる。