「たなコン」それは私が大学時代に所属していたサークルの夏の風物詩であった。

「たなコン」とは「七夕コンパ」の略で、浴衣を着て参加するコンパのことである。高校時代は茶道部に所属していて、年に一度、文化祭でお茶会を開く際に浴衣を着る機会があった。けれど、それ以来、すっかり浴衣を着なくなっていた。浴衣を着るなんてめったにない機会だし、楽しそうという思いで参加を決めたが、まさかの事態が発覚した。

なんと、たなコンの日が大学の補講日と被っているのだ。補講とは、講師の都合や天候不良等で通常の講義が休講になった場合に、その振替として行われるもので、月に一度、休日に補講日が設けられている。

講義は昼間で、たなコンは夜。時間帯は被っていないけれど、浴衣はどうする?さすがに浴衣を着て講義に出る訳にもいかないし。講義をサボるのは避けたい。体調不良以外で講義を休むというのは当時の私には考えられなかった。

考えあぐねた結果、究極の選択で辿り着いたのが、大学のすぐ近くにある漫画喫茶で浴衣に着替えるというプランであった。そもそも漫画喫茶自体行ったことがない。初めての利用がまさかこんな形で訪れるとは。

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早速、店に行くと、会員カードを作る流れになった。普段から、あまり漫画を読まない私は、たぶん、ここに来るのは最初で最後だろうなと思いつつ、恐る恐る店内に入ると、ずらーっと漫画が並んでいた。

漫画喫茶なのだから、当たり前なんだけれど、漫画の量が想像以上で圧倒された。部屋はホテルほど完全密室ではないけれど、もちろん、隣の人に見られることもなく、着替えるのに何不自由ない個室だった。

たなコンまで時間があったので、しばらくゆっくり過ごすことにした。そのお店だけなのかもしれないけれど、店内の照明が程よく暗いのも心地良かった。元はと言えば、浴衣に着替えるために利用することになったけれど、ドリンクも飲み放題で快適だった。そして、浴衣に着替えていざ、たなコンへ。退店時、お店の人も、もしかしたら、驚いていたかもしれない。浴衣で来店した人なんていたっけ?って感じだったと思う。

漫画喫茶から、たなコンの会場までは少し歩いた。浴衣で歩くのは一苦労だ。会場に着くと、皆それぞれ個性豊かな浴衣を着ていた。自分が浴衣を着るだけで気分が上がるけれど、皆の浴衣姿を見るのも楽しい。なんだか子供に戻ったような気分だ。

たなコンは年に一度のビッグイベントということもあり、普段のイベントに比べて参加する人が多い。普段はあまり現れない幽霊部員的な人も来たりして、まさにお祭りだ。

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たなコンが始まると、皆はしゃぎっぱなし。違う大学、学部の人と話せるのは楽しい。これこそ大学生の醍醐味だと思った。会の終わり方になると、テーブルの上に残っている料理が目立つ。なんだかもったいないというのは都合の良い言い訳に過ぎなくて、ただ食べたいという欲望に駆られ、私は黙々と残った料理を食べていた。

たなコンが終わり、その余韻に浸りながら、帰路につく。浴衣で電車に乗るのもなんだか新鮮だ。本当は行きもそのはずだったけれど、補講があったので仕方ない。漫画喫茶での着替えがあったからこそ、たなコンがより一層楽しかった思い出になっている。