私の心の中には、宝物がある。

私は、高校で夏に開催されていたキャンプに参加していた。山々に抱かれた湖の畔で、数日間を初対面で学年もばらばらなメンバーと過ごす。
水泳やボート乗り、バーベキューにハイキング、キャンプファイヤーなど、わくわくするような企画が目白押しだったが、私が何より大好きだったのは、歌っている時間だ。

私はどちらかといえば人見知りで大人しい方だったけれど、お日様と湖があって、大きな声で一緒に歌ってしまえば、そんなことは関係なかった。

今がとっても楽しいこと。今日が終わらないでほしいこと。いつも感謝していること。あなたに憧れ、あなたのような人になりたいと思っていること。
心のうちにある温かいものを、素直にそのまま表現することができた。全員が全員に温かく見守られていて、冷笑されるなんてことは絶対にないという安心感に包まれていた。

私たちが安心してキャンプでの数日間を過ごせていたのは、上級生の努力によるところが大きい。
いつでもメンバー全員に目を配り、困っていたら助けてくれて、みんなが安心して楽しく過ごせるように真剣に考えてくれていた先輩達は、後輩達の憧れの的。私も彼女達が大好きだったし、いつかは彼女達のようになりたいと思っていた。

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それなのに高校卒業前の最後の夏、私は大好きなキャンプに参加しなかった。受験を理由にしていたけれど、それは言い訳に過ぎない。元来、私は受験があろうが行事は目一杯楽しむ主義だ。ただ、私は怖かったのだ。今まで憧れてきた先輩達のように、私が最高学年として後輩達をまとめ上げ、楽しませられるイメージがどうしてもできなかった。今までのキャンプで沢山の人から与えて貰ってきたものを、私は最高学年として返せる自信がなかった。それをすべて受験のせいにして、逃げた。周囲にも自分にも、「受験が忙しくて」と言い訳をしなければ、裏切った心地がしてやりきれなかった。

キャンプに最後に参加してから、もう5年以上たった。今となっては、最後のキャンプも参加すればよかったと思う一方で、あの選択が当時の自分にとっては精一杯で限界だったとも思う。

卒業後、キャンプからは遠ざかっても、思い出と憧れを胸に、彼女達に少しでも近づけるようにとアルバイトもサークル活動もゼミの活動も頑張ってきた。困っている人に気が付いて、助けられるように。みんなが安心して楽しく過ごせるように。時間はかかってしまったけれど、今の私なら最高学年としてキャンプに参加するという選択がきっとできる。そのくらいには、自分に自信をつけることができた。

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今でも夏が来ると、みんなで歌った歌をくちずさむ。キャンプで過ごした数日間は、5年以上経っても色褪せない。

私の心の中には、宝物がある。
山や森で夏の日差しを浴びて輝く木々を見るたびに、緑の光を受けて私の宝物はきらきらと輝く。湖の光を反射して眩しく光り、山に沈む日を映して朱に染まる。
その輝きを大事に抱えて、今年の夏も過ごしている。高校3年生の夏に返せなかったものを、今やっと誰かに返しながら。