雨が降っても傘は差さない。3週間の英国留学で変わった変わり者の私

あの夏からもう20年が経とうとしている——。たった3週間のイギリス短期留学だったけれど、今思えば私にとっては初めて殻を破った出来事だった。
昔から“皆と同じ”が嫌で、背伸びをして洋楽を聞いていた。可愛いよりも「面白いね」と言われる方が嬉しかった。「変わっているね」といわれることも多かった。
でも「変わってるね」には、ちょっともやもやしていた。「じゃあ“普通”って何?」と心の奥でいつも思っていた。我ながらめんどくさい女だ。
大学に入っても「変な人ポジション」は健在だった。イギリスのバンドミュージックを聴きながら、電車に揺られて登校する日々。イギリスに行ってみたい。ただ、長期留学をするのにはハードルが高く、それなら就活前に短期留学をしてみたいなと思うようになっていた。
そんな時、偶然目に留まったのが、東京の大学が主催するオックスフォード大学への短期留学プログラムだった。行き先は、興味のあるイギリス。寮生活というのも魅力的だった。他大学の学生でも参加可能とのことで、少し迷いながらも親を説得し、ついに参加を決めた。
とはいえ、過保護で育った一人っ子。親元を1週間すら離れた経験がない。しかも異国の地で、ふたを開けてみれば数人しか他大学からの参加者はいなかった。やっていけるのだろうか?不安を抱えながらの出国となった。
でも、そんな心配はすぐに吹き飛んだ。
入学式後訪れたのは、あのハリーポッターで有名なクライストチャーチ。その中にある、ホグワーツ魔法学校の食堂のシーンに使われたグレートホール。足を踏み入れると、映画で見たあの世界に思わず息を呑んだ。
授業は、毎日イギリス人の先生によって行われた。たった3週間しかないし、とにかく間違えを恐れず積極的に取り組もうと思った。
実は私のクラスにだけ、上海から来た男の子が参加していた。彼は、日本人のプログラムであれば、英語を使うしかないので、このプログラムを選んだという。私なんて違う大学だということにすら不安を覚えていたのに。すごいなと尊敬した。
上海の小皇帝と呼ばれていた彼は、皮肉めいたことも言うがどこか憎めない。
「You’re always moving(いつも動いてるね)」とか「You’re funny. You’re such a character!(個性的で面白い人だね)」と、いたずらっぽい笑顔で私によく言ってきた。
日本でも「変わってるね」とよく言われていたけれど、そのときは全く嫌じゃなかった。大げさかもしれないが、ちゃんと私のことを見て受け止めてくれた気がしたのだ。
私は、自分の“そのまま”を肯定してくれる誰かに、ずっと出会いたかったのかもしれない。彼に笑ってもらいたくて、よくふざけていたのを思い出す。
彼の存在もあり、クラス内では英語でコミュニケーションが活発に行われた。彼の周りはいつも笑い声が絶えなかった。
イギリス人は雨でも傘を差さず、試着もその場で済ませる。スカートの上からズボンを重ねる人までいた。そんなカルチャーにすっかり染まり、次第に開放的になっていった。
最終日の仮装大会では、女王様の格好ですっかり出来上がっていた私。先生たちに、酔っぱらいながら英語でメッセージカードを書いたのもいい思い出だ。きっとめちゃくちゃな英語だっただろうけど。
正直3週間では、英語力の劇的な向上はできなかった。でもたった3週間で変わったなと思えたことがあった。それは“顔つき”だ。
入学式と卒業式、同じドレスなのに、顔つきが全然ちがうのだ。なんだか一皮むけたような、自信に満ちたような顔。気にしていた二の腕をストールで隠していた入学式の私。最終日には、彼と中国で当時流行っていた“ぶりっ子ポーズ”をちゃっかり決めていた。
この写真を見返して、やっぱり短期留学に参加してよかった、自分の気持ちに素直になってよかったと心から思った。
今は2児の母として、ついつい自分のことを後回しにしてしまいがちだ。家族が増えてから、趣味だった海外旅行もすっかり遠のいてしまった。でも、また自分の“やりたい”をやってみたい。あの夏の回想を経て、心が動いた。
この間、鉄オタの長男とハリーポッターの話になった。どうやら、あの9と3/4番線に行ってみたいらしい。雨が降っても傘を差さないあの国に再び。今度は家族で。
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