カーテンからチラつく朝陽が映画みたい。延泊がくれたご褒美の時間

旅先で迎える朝が好きだ。基本的にはどこでだってよく眠れるから、ビジネスホテルのコンパクトな部屋のベッドで迎える朝も、ちょっとラグジュアリーなホテルの大きなベッドで迎える朝も、深夜バスや飛行機にゆられて迎える朝だって、好ましく記憶している。
7月、滋賀県に行った。メインのイベントは勉強会で、それは涼しい部屋で楽しく過ごしているうちにつつがなく終わった。延泊して迎えた朝、目に入ってきたのはホテルの部屋のカーテンの青。深く鮮やかな青のカーテンから朝陽がチラつく様子は映画の一場面みたいで最高だった。旅慣れている方なので支度ははやく、あっという間にチェックアウト。
ホテルでのんびりするような旅程を組んでいなかったから、コンパクトで必要最低限の設備がきゅっと詰まった安めの部屋は大正解だった。
強い日差しにサングラスを外すタイミングを見失いつつ、目的地に向かって電車とバスに揺られた。旅先で乗る電車やバスってどうしてあんなに特別なんだろう。車の免許も持っているし、荷物のことを考えたらその方が楽なんだろうけど、それでも電車やバスに乗りたい。
それでも空気感が好きだから電車やバスでの移動を選択しがちだ。
移動中の窓から見える景色はわたしが住んでいる地域のものとは大きく違っていて、その違いがすごく好きだった。広大な田んぼや畑、言わずもがなの海のような巨大な湖、青々とした山の中を潜り抜けるトンネル。バスから降りれば風情のある街並みが見えて、炎天下の中横切るように進んでいく。日差しが痛いくらいで、ふだんほとんど屋内から出ない肌に刺さった。
10分ほど歩いたら、見覚えのある鳥居が見えた。背筋が伸びるような感じがした。今回の旅の観光パートで最大の目的である神社に着いたのだ。
その神社はとある有名なドラマのロケ地で、作品の中でも印象的に登場する。主人公が恋人との仲を深めたり、プロポーズされたり、失った絶望と怒りの中で訪れたり、主人公の娘がその夫と訪れたり、年老いた主人公が孫に連れて来られたりする、数々の名シーンの生まれた場所。少しひんやりした空気の中に立派な社殿が佇んでいて、高くそびえ立つ木々の間から差し込む木漏れ日が綺麗だった。参拝して、人生初の御朱印をいただいた。神主さんがドラマ撮影のときの裏話をお話ししてくれて、ついつい長居してしまった。
旅先で出会うひとと話す時間でしか得られないエネルギーって確かにあって、その一期一会を繰り返すたびに自分でも気づいていなかった穴が埋まっていく感じがする。
神社からの帰り道、相変わらず太陽の照る道を、劇中に印象的に登場する曲を口ずさみながら歩いた。今わたしが生きている世界はあまり人の行き交いに制限はなく、ほぼどこの国にでも自由に行くことができる。
でも、残念ながら、女ひとりで楽しく旅をできる国は限られる。たくさん汗をかきたくても、できるだけタクシー移動をしていた方が良いような国だってあるのだ。
その街の空気を感じながら過ごせる汗びっしょりになりながらの歩きの多い旅だって、わたしはしたい。そんな旅ができる日本の夏を、わたしは案外嫌いじゃないのだ。
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