夏は暑いが、どこか寂しいと感じるのは、積乱雲が空に茂った後の雷雨が、静けさと涼しさを思い出させるからだろうか。雨が降ったあとのむわんとした駅の高架下のあの匂いを今も覚えている。

◎          ◎

小学校低学年の時、夏休みはプールやアイス、旅行などたくさん楽しいことがあって、大好きだった。夏の暑さに寂しさなど感じなくて、ただ暑くて純粋に心から楽しかった。

4年生の夏に、朝は晴れているが、昼すぎから灰色の雲が立ち上り、午後は雷雨になる日が続いた。それが初めて感じた夏の暗さだった。塾帰りに母親の自転車の後ろから空を眺めた。眼鏡越しに見た空はどこか不気味だと感じた。

5年生になって夏期講習は午前と午後になり、4年生の頃よりも拘束時間が増えた。10時から16時半ごろまで勉強した。お昼に塾の友達とお昼ご飯を食べるのが楽しかった。その後授業が始まるまで自習をした。7月20日ごろ、「あいさつができる」にもう少しがついた通知表に多少の罪悪感を抱いたが、その翌日から夏期講習は始まった。問題を解けるという感覚が好きだったし、学ぶこともそれなりに好きだったように思う。勉強を頑張ったというのが小学生の夏の思い出だ。

◎          ◎

それなりの時間を勉強に費やしたが、第一志望校は判定の通り不合格だったため、第二志望校に入学した。汗をあまりかかなかった小学生の夏に比べ、汗を良くかいた中高生活だった。ひょんなことからダンス部に入り、夏休みは平日9時から12時まで、13時から16時までピロティと呼ばれる屋外でダンスの練習をした。ダンスをやったことがなかったので酷い出来だった。

周りにも未経験者が多く、先輩に怒鳴られた記憶がある。中学三年間は部活が嫌いで、楽しいと思ったことがなかった。いかにしてさぼるかを友達と考えていた。熱中症になりそうなほど汗をかいて30度を超えているのではないかという炎天下で走ったり、踊ったりしていた。体調を崩す人も多かったが、暑くて体調を崩した覚えはない。しかし、部活は好きではなかったので、私も体調が悪くなれたらよいのにと思っていた。

そんなこんなで中学3年生になり、コロナ禍で練習が減ったのが嬉しかった。当時の夏休みはかなり短く、部活も殆どなかった。汗をかいた覚えはあまりない。

◎          ◎

流れるように月日はすぎ、高校生になった。後輩の中で最高学年になり、頑張らざるを得ず、ダンスも勉強と同じように取り組めば上達するのではないかと思い始めた。5人しか行かなかった練習に行ったり、ノートにふりをメモして忘れないようにしたりした。それまで自分の踊りを動画でみるのが気持ち悪くて嫌いだったが、何年もやっているとそれなりにましになったりするものだ。意外とましじゃん、と肯定的に捉えられることが増えた。

高1、高2と部活は午前か午後のみだったが、前よりも部活に対して前向きに考えられるようになり、沢山踊った。家でも動画を見て練習して汗を流した。嬉しかったのは、口が辛いことで知られるコーチが私の作ったふりを見て、改善点はあるが、悪くないと言ってくれたことだ。高2のころは屋外ではなく冷房の効いた屋内で練習するようになったが、同期と同じ目標に向かって汗を流し練習したのはとても思い出深い。私の青春だったと言えよう。

◎          ◎

夏の雷雨も寂しいと感じることはあったが、みんなで屋外から屋内に避難したり、雨雲レーダー見て実況中継をしたりして、楽しい思い出も増えた。小学生のころ、勉強において自分と向き合っていたのに対し、仲間とともに見た景色は寂しくはなく、心強かった。

今年の夏も雨は続くが、寂しさを殆ど感じないことに気付く。夏のあの日、雨の中一緒に帰った旧友は今年の夏に何を見ているのだろうか。