雪が降ると何かを落とす。車の鍵、アパートの部屋の鍵、財布などなど……。なぜか雪が降ると何かを落とし、その上に雪が降り積もり、見つからなる、というのがパターンだ(運のいいことに毎回雪が解けて見つかったり、親切な人が届けてくれたりして大事にならずに済んでいる)

◎          ◎

今年の大雪の日。落としたものはスマホであった。
なくても困らないと思いはしたが、拾い主に悪用されては困る。この世にはとんでもないやべぇ奴がいると聞く。雪の日であったがその日の足取りをたどることにした。

すぐさま見つかった。その日行った病院の駐車場だった。見つかったとき、すでに変わり果てた姿ではあったが。駐車場だけあって、轢かれて息絶えていた。いかにアップル社であっても車に轢かれて耐えられる耐久性はないようだ。まぁいい。見つかったし。めでたしめでたし。そのうち携帯ショップに行ってどうにかすればいいと思っていた。スマホくらいなくても平気だろう、と。

◎          ◎

しかし、スマホがないと不便であった。翌日妹と出かける約束をしていたが、まぁ、出会えない。妹からの連絡が見られないし、私からも連絡できない。ようやく妹と出会えた時、妹は切れ気味に「今すぐ携帯ショップに行って来い」と言った。

スマホがないので、携帯ショップにも連絡ができない。妹からスマホを借りてショップに連絡を入れる。雪の日なので行きたくない、と渋る私を妹は唯一対応してくれると言う隣の市のショップに車で連行した。ショップに着くと妹は私に食べ物を渡し、「用事が終わったら連絡しろ。携帯ショップなんだから電話はあるだろう」と言い放ち、帰って行った。
ショップは5時間待ちだという。5時間待てばいきなり来た客の対応してくれるというのだからありがたい。そこで、私は一旦店から出ることにした。が、妹のスマホの番号が分からない。自分のスマホが死んでしまった今、誰にも連絡できない。しかも、車もない。どうしよう。

◎          ◎

歩いて自分の家に帰ることにした。
5時間あれば隣の市とはいえ着くだろうし、自分の車で出直せばいい、と思ったのだ。これが大きな間違いであった。この日は大雪だ。
雪が降りしきる道路状況も悪い中、一心不乱に家路を急ぐ。寒い。雪が降りすぎて前が見えない。死ぬ。しかし助けを呼ぶ手段はない。
道中、コンビニに入り温かい飲み物を買い暖をとる。まだいける、そう信じて歩くことにした。これも間違いであった。この時、諦めてショップに引き返せばよかったのだ。まだ引き返せるうちに。

くどいようだが大雪だ。一人の歩行者がいるせいで車のドライバーは迷惑だったことだろう。足元の悪い中一生懸命に歩く。歩かないと家に着かない。本当に寒い。もはやどの道を通るのが正解なのか分からなくなってきた。どの道を選んでも除雪した雪が山になって、どこが歩道か分からないのだ。道なき道を行く。吹雪いて前が見えない。もう歩き始めてから数時間立っている。

◎          ◎

このままでは凍死すると割と本気で思い始めたとき、一台の車が私の隣に停まった。福祉施設の車だ。ドライバーさんの女性が叫ぶ。「こんな日に、どこに行くんですか?!」正気か、と言わんばかりの勢いだった。吹雪く中、雪にまみれた女が歩いているのだ。不審だったことだろう。女性は私に車に乗るように言ってきた。「みんなのためにも乗ってください!!」ありがたい。意識がもうろうとしながら私はとりあえず車に乗った。女性が言うことには、「こんな日に歩くのは世間の迷惑なのでやめた方がいい」と。まったくだ。

よく考えてみると知らない人の車に声をかけられて乗るなんて、してはいけませんと言われていること過ぎる気がする。きっと子供でもしない。しかし幸いにもお姉さんは良い人だった。

◎          ◎

こうして人命は救われた。
その後ショップでどうにか対応してもらい、私は無事にスマホを手に入れることができた。相当に安心した。これほどスマホに感謝したことはない。連絡先も無事だ。さすがアップル社。
スマホがないと死にかかってもどこにも連絡できない。この1日でスマホの重要性を十分に知ることができた。