私は留学をしたことがない。正直、したいと思ったこともない。 けれど、海外に興味がないわけでも、外国人と関わりたくないわけでもない。むしろ、私は留学しなくても、誰かの心に届き、世界とつながることができると感じている。

夏休みに、お祭りのイベントの手伝いがあると、外国人を見かける。浴衣を着て、楽しそうに写真を撮る姿は微笑ましかった。
博物館や神社仏閣に行っても外国人を見かけることが多い。日本の文化や歴史に興味を持ってくれていると思うと、日本が誇らしかった。

コンビニや携帯ショップで働く外国人も見かける。日本語を一生懸命に覚えた上に、お客様にスムーズに対応している姿はかっこよかった。母国語ではない言葉を覚えるだけで大変なはずなのに、業務をしっかりこなす外国人には尊敬しかない。
 日本にいるだけでも、外国人との出会いがある。そして外国人は、日本の文化をとても大事にしてくれている感じがひしひし伝わってくる。

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私と外国人との関わりは、ホテルや旅館が最も多い。そしてホテルと旅館で出会う外国人とは、お祭りや神社仏閣で見るような遠目ではなく、関わりを持つこともできた。
私は旅行でホテルや旅館に泊まると欠かさずすることがある。それは、感謝の気持ちを物と言葉で伝えることだ。地元の工芸品の伝承連鶴とメッセージカードを書いて渡すことである。

よく、ホテルや旅館に泊まると机の上に、お菓子が置かれていることがある。これは、旅館やホテルからのささやかなおもてなしだと感じている。こちらからも何か贈り物を送ったら喜んでもらえるんじゃないかと思ったことがきっかけだった。
 

私は、旅行カバンに和紙と折り紙、ハサミとペンを常備しておく。贈り物の制作準備のためである。旅館でまったり過ごしながら、私は和紙にハサミで切れ込みを入れる。今日は、どんな伝承連鶴にしようか。のんびりしながらも、手は動かす。1折り1折り丁寧に折る。

せっかく贈るんだから、美しいものにしたい。連鶴が出来上がると、次にカバンから折り紙を取り出す。半分に切った折り紙の上の部分をハートの形に折る。そうすると、ハートのメッセージカードの出来上がり。黒のペンを取り出して、お礼を書く。

「ステキなおもてなしを、ありがとうございます」

これで完成!私の旅行のルーティーン。もう、これをしないと逆に落ち着かなくなっている。

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今日は旅館のお部屋の案内の人、外国人だったな。一生懸命説明してくれて、とても親切だったな。日本のこと好きなのかな?旅館で働くの夢だったのかな?そんなことを想像しながら帰り支度をする。旅館を出る時、私はお部屋の案内の人に、お礼の鶴とメッセージを渡す。わぁっと驚いた表情を見せる。私はこの瞬間が好きだ。目を輝かせている。

「すごい、ありがとうございます」と、微笑んでくれた。

大事そうに両手で持って、去っていく姿は愛おしかった。年齢や性別、日本人か外国人、そういうものは関係ない。あんなふうに、大切に持っていってくれることが私にとっての喜びである。

あの連鶴を持って、あの人は、どんなことを思っているんだろう。持ち帰って、誰かに今日の話をしてくれていたら、いいな。そんな淡い期待をしながら私は帰る。

留学はしていないけれど、誰かの心に届くという意味では、十分に世界とつながっている。
鶴が日本も世界もつなげてくれる。
 でも、もしいつか留学することがあれば、私はその国の言葉を勉強して、日本の伝統文化の説明ができるようにしたい。

そして、鶴を一緒に折って、互いの文化や歴史を尊重し合いたい。
留学しても、しなくても、心は通じ合える。
旅するたびに、1羽の鶴を通じて、私は世界の誰かとつながっていく。