夢があったのは多分、中学生くらいまでだったと思う。

それまではほんとにたくさんの夢があった。
アニメの影響でパティシエになりたかったし、これまたアニメの影響で声優になりたかった。歌手や作家、花屋、職人なんてものにも憧れた時期があった。

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だが、高校生で進学を考えるようになって現実を見始めるとともに、私の夢はひとつ残らずなくなった。

パティシエは厳しい世界で離職率が高いと聞いたし、声優はどれだけ下積みをしてもメジャーな作品に出られない人の方が多い。
たとえ夢が叶ったとしても、続けられるだろうか。
それで生きていけるだけのお金を稼げるだろうか。

そうやって現実的なことばかりを考えて、夢を夢にしておけなかった。

だから夢を夢のままに追い続けている人を見ると、正直羨ましい。
私は良い方向に考え続けることも、そんなに頑張る気力も覚悟もないからだ。

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小さい頃の自分は、成長したらみんながキラキラした大人になると思っていた。

夢なんて当たり前に叶えられるものだと思っていたし、夢を叶えたあとも自分の想像する楽しい日々が待っていると思っていた。

けれど現実は違う。
大人なんてそんなにキラキラしてるものではない。
仕事はしんどいし心は病むし、今なんてなんとなく日々を生きているフリーターでしかない。

何者にもなれてなくて、何者かになろうとすらしていない、ただ時間を消費している感覚だけがある毎日だ。

新しい夢が欲しいしそれを追いかけたい、と思っている自分もいるが、この生活をいつまでも続けたいような気もする。

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だって、夢を持たないのは楽だ。

達成したいこともすべきこともなくて、ただ楽しいだとか、やってみようとか、そういう気持ちで生きていける。
辛いことからは離れたらいいし、しんどいことはやらなくたっていい。
生きていく上での最低限のお金と、少しの楽しみがあればいい。

あまりみんな公に言わないだけで、意外と似たような考えの人は多いのではないかと思う。
毎日がそこそこ楽しくて、しんどくなければいいという人。

でも夢を持っている人、特にそれを叶えた人ばかり目につく場所にいることで、そう思っているのが悪いことのように思えてしまう。

もちろん目標があるのはいいと思うが、何かになりたいと思わないといけないのだろうか。

この先どうするの、なんてよく聞かれるけど、今のままじゃそんなにダメなのだろうか。

正社員じゃないから?
楽しさ、楽さを重視して生きているから?

しんどいことを乗り越えてこそ、なんてみんな言うけれど、しんどいことなんて経験しなければしないだけいいのではないだろうか。
人生は有限だし、苦痛が占める割合が少ない方が良いのではないだろうか。

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こんなことをぐるぐると考えてしまっているから、今日という日も特に何も進むことなく、ここにいる。
しんどくないし、そこそこ楽しい日々。
けど、夢中になるものも特にない日々。

いつまでここにいられるのか、ここにいるのか分からない。
でも、留まったって、進まなくたっていいと私は思う。