叶った後も、叶わなかった後も、人生は続く。大事なのは夢に向かう日々

「夢は、あった方がいいよ」
いつか誰かに言われた言葉は、実際に言われたかどうかも分からないほどに、自分のなかに染み込んでいます。
でも、ちょうど1年前、私は「夢なんて持つべきじゃない」と思っていました。
その頃の私の夢は、5年間付き合ってきた病気を治すこと。それが当時の私にとって最大の夢であり、大切な目標でした。
でも、「1年間、病気を再発させない」という夢が叶った時、「嬉しい」と思う間もなく、「これからどう生きたらいいのか分からない」と、私は途方に暮れました。
たとえ症状が落ち着いても、数か月経てば通院生活に戻るということを5年間繰り返していた私からすると、「1年間病院に行かずに過ごす」なんて、夢のまた夢。大きな"夢"が叶ってしまった途端、何をモチベーションに生きたらいいのか分からなくなったのです。当時のメモには、「呼吸の仕方すら分からなくなるような感じ」と書かれていました。
何か1つの夢や目標のために生きようとしたら、それが果たされた時、人生が崩れることもある。そんな苦い学びを得ました。
それでも、私は新しい夢が欲しいと思いました。心の中で柱となってくれる"何か"を探し求めずにはいられなかったのです。でも、1つの目標や夢のためだけに生きることは、もうやめようとも思っていました。
確かに、夢に全力を注ぐのは素敵なことです。「1つの夢のために生きる」なんて、実にいい響きです。でも、本当に全身全霊を捧げてしまったら、それが叶った時、人生の意味は消えかねない。そう分かった上で、私は新しい夢を探し、見つけ、新しい夢に向かう日々を歩み始めました。
その新しい夢とは、「世界一周に行くこと」です。
夢も目標も失っていた時に、「そうだ、世界一周という手があったか」とひらめいた瞬間の、バチッと音を立てて自分の夢が決まっていく感覚を、今でも忘れることはできません。
あの、燃え上がるようなワクワク感を、いても立ってもいられなくなる焦りに似たはやる気持ちを、ずっと知らずに生きてきたことが今では信じられないほどです。
この国に行ったら何を見ようとか、あの国に行くなら、少しくらいこの言語を学んでみようとか、世界遺産について勉強してみようとか、どんなカメラを持っていこうかとか……。仕事の合間に、休みの日に。暇さえあれば「世界一周」のことばかり考えて生きてきた1年でした。
その一方で、家族や自分に何かがあって、世界一周どころではなくなったらどうしようとか、逆に、世界一周で完璧に楽しい日々を過ごしてしまったら、その後の人生はどうすればいいのか、ということを考えてもいました。夢は、叶っても叶わなくても、それなりにきついものがある。そんな想いも抱えて生きてきた1年でした。
でも、最近思うのです。
世界一周は、確かに私の夢です。でも、「夢のためだけに生きるのはやめよう」と思ったからか、私はそれだけを日々の目標にはしていません。一緒に世界一周を目指す仲間たちとの会話を楽しみ、今しか見られない景色や感情を味わう……。そんな風に過ごしてきたからか、もう、世界一周に行けるかどうかすら、気にならなくなったのです。世界一周は私の夢ですが、それが人生の全てではない。そんな風に思えるようになったのです。
夢が叶うか、叶わないかが問題なのではありません。ここまでの全ての日々が、自分の人生にとって大切で、かけがえのないものだと気づきました。この1年は、確かに、自分の人生を生きてきた1年間。それは夢が叶っても叶わなくても、決して変わることのない尊い時間だと思えるようになったのです。
「夢なんて持つべきじゃない」と夢の力を恐れていた過去の私に、その怖さを分かった上で、私は「夢は、あった方がいいよ」と伝えたいと思います。「それのみを、生きる目的にしないで」とも。
夢が叶った後も、叶わなかった後も、人生は続いていきます。でも、夢を叶えるまでの日々を楽しんで生きればきっと、夢は、人生を壊す存在ではなく、豊かにしてくれる存在になるはずです。
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