ペットというと、大体の人が犬や猫を思い浮かべると思う。たまに爬虫類や鳥類、魚などを飼う人もいるけれど、メジャーなのは犬、猫、ハムスターなどの毛が生えた生き物だろう。
私の実家でも10年前までクリーム色のロングコートチワワを飼っていた。3歳の頃から飼っており、様々な苦楽を共にした。辛いことがあったら一方的に打ち明けて、愛犬の存在そのものに慰めてもらったこともある。

高校2年生の頃に亡くなって、あまりにも突然の別れに涙をこぼす日々を送った。
もうあんなに悲しい思いはしたくないと、ペットはもう飼わないと固く心に誓ったのである。

散歩で出会う犬を見たりペットショップでチワワを見かけると、「いいなぁ」と思う気持ちが湧き出たのも事実だ。
でもそれ以上に失った時の辛さが傷として残っていたので、その気持ちは心の奥に押し込めて生きてきた。

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別れも突然だが、出会いというのもこれまた突然にやってくるものだ。それから10年の月日が流れ、私は恋人と出会った。
恋人は釣りが好きで、休みがあると釣りへ出かける。海の青のように涼しげな雰囲気を纏い、きめ細かい白肌を持った、海辺が似合う人だ。

今夏、川へ釣りに行った時にうなぎを釣ってきてくれた。水を溜めたビニール袋の中でうごめくそれは、まるで蛇のようだった。

私は蒲焼きにして食べる気満々でいたが、「飼ってみない?」という流れになった。それまでうなぎといえば、滋養強壮の土用の食べ物というイメージしかなかったが、調べてみるとペットとして飼っている人もそれなりにいることが分かった。

それに、うなぎは生命力が強いため餌をあげなくても平気で生き延びる。他の生き物は旅行に行くのにもペットホテルや知人に預けなければならないが、うなぎはお留守番させておける。もし海外旅行に行くとなったとしても、安心だ。
私たちは色々案を出し合って、「ぬめきち」と名付けた。ヌメヌメしているのと、おそらくオスだろうということでこの名前にした。
早速ペットショップに行き、水槽と浄水器、餌を買ってきた。ホームセンターで土管として隠れ家にするためのパイプも買い、ぬめきちは晴れてペットとなったのである。

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お盆に恋人と一緒に祖父母の家へ二泊三日で帰省した。家を出る前に、「ぬめきち、ちゃんと元気にしてるんだよ」と声をかけて出た。
観光や食事を楽しみ、元気そうな親戚の顔を見て夜に家へ帰った。電気のリモコンを探すために暗闇の中を探し回り、いざ明かりをつけると、水槽の前の床には息も絶え絶えなぬめきちの姿があった……。
何故か勢いよく飛び出していて、暴れ回ったのか床には水の跡とぬめきちから出た粘液のようなものが付着していたのである。

急いで水槽へ戻して塩を入れてやると、数十分で正常な呼吸になった。私たちはほっと胸を撫で下ろした。

ぬめきちは寂しかったのだろうか。それまであまり暴れたこともなかったので、不思議だった。お盆だから何かの知らせだったのだろうか。

うなぎを神聖なる存在や神の使いとして崇め、祀る地域や神社が存在するらしいことから、ぬめきちも何か知らせたいことがあってあんな挙動をしたのかもしれないと思い込むことにする。
そういえば、以前にもカルキ抜きするために一日中置いておいた水槽の中へ、袋の中から自力で飛び込んだことがあった。夜中にポチャンと音がしたので起きて見てみると、悠々水槽の中で泳ぎ回っていた。生命力の塊すぎる。
夜行性なのもあり、土管に隠れてめったに顔を見せてくれないが、ぬめきちがいるだけでとても癒される。

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しかしデメリットもある。それは、好物だったうなぎの蒲焼きが食べられなくなったことだ。自分でもこんなに葛藤するなんて想像していなかった。
これからもうなぎを美味しく食べたい人には、ペットにするのはおすすめできない。でもそれ以上に可愛くて育てやすいので、うなぎをペットにする人口が増えることを願っている。