京都の大学を卒業した3日後、私は新橋のキャバクラで座っていた。
どうしてこうなってしまったのか、24時間前に遡る。

◎          ◎

「少し距離を置きたい」

3年付き合った彼氏は唐突にそう言った。本当に突然だった。
当然、私は受け入れられなかったので質問攻めをした。

「何かあったのか?」「私に対して怒ってる?」「どうして急にそんな事言い出すの?」はじめは彼は何も言わなかったが、ぼろぼろと転がり落ちていくように全て洗いざらい話した。要約すると、高校の同窓会で知り合った彼氏持ちの女の子とこの3ヶ月浮気をしていて、本気になったから私と別れたいということだった。

私は人生であんなに怒った日も、悲しい日も後にも先のも未だ無い。
彼をあまりにも信用していたし、この3ヶ月の間に彼は私の実家に泊まったし、記念日を一緒にお祝いしたし、昨日は母と彼と3人で出かけたばかりだった。
彼は恋愛経験の多い人ではなかったし、私と付き合うまで洋服も親が買ってきた物を適当に着ているほどお洒落っ気も無く、家と研究室を往復する絵に描いたような理系大学生だった。

私はそんな彼が大好きだった。

◎          ◎

彼と結婚するものだと、私自身も周りの誰しもがそう思っていた。
そんな彼が浮気していたなんて理解できず、取り乱した私は支離滅裂な言葉を彼にかけたりした。そんな状況にも関わらず、彼は嬉々と浮気相手の影響でタバコを始めたことや、今もラインをしてるなど言っている。

ああ、私がこの馬鹿を作ってしまった。
私が彼に似合うように服や髪型を一緒に選んでいた。私が3年付き合ったから、女の子に対する振る舞いも会得したのでしょう。
それで、久しぶりに同級生に会ったらチヤホヤされてそのまま調子に乗ってしまったのでしょう。そんな情景が手に取るように浮かび、彼に対して呆れと怒りの感情が一気に押し寄せて、自分の家から追い出した。

男はみんな過去の女の作品である。って誰かが言っていたな。

◎          ◎

3年間彼と過ごした家にこのまま居たら、私はおかしくなってしまう。気づいたら始発で新幹線に飛び乗り、東京に向かっていた。

東京に住んでいる友達のギャルの家に転がり込むと、「大学と彼氏の卒業祝いダヨ〜」と、お花も包装もリボンも全部ピンクの花束をくれたりした。

お金をほとんど持たずに逃げるようにやって来たと伝えると、「あたしのバイト先で体入しなよ。」と言い、私は彼氏に振られた24時間後に新橋のキャバクラで[ここまでのあらすじ]をお客さんに話していた。

Instagramのおすすめは時に残酷である。
彼と浮気相手だった女の子が結婚したのを知るのはその数年後になる。
2人の投稿は北海道での挙式だった。
式場も3分で特定できてしまった。現代のネット社会は本当に隠し事が難しいのだなと感じる。そこには、2人が涙したり見つめあったり両親の前で感謝を述べたりするような画像が何枚もあげられていて「何故」という気持ちになった。

何故、お互い浮気だったくせに結婚しているの。
何故、両親に涙ながらのスピーチができるの。
何故、祝福されているの。
もう彼を好きだった気持ちは遠い過去だけど、あの時の身体中の血液が沸騰するような怒りの感情は鮮明に戻ってくる。

やり場のない怒りを落ち着かせるために、観葉植物を買ってみた。
オビ=ワン・ケノービという名前もつけた。

◎          ◎

あれから彼氏を作ってみたりした。
あの時の怒りは忘れて幸せに生きている。
でも時々、「いつかはこの人も私を好きじゃなくなるんだろうな」とあの時の渦に心が飲まれる時もある。

ただ、失う覚悟がいつでもできていれば怖いことは何も無くなった。
浮気された私が手に入れた唯一の良かったモノかもしれない。
この数年で考えた[もしも彼氏が浮気したらこうやって報復してやろう]。というアイデアも溜まってきたので、浮気しようものならそちらも覚悟していて欲しい。
そう思ってはいるけど、あれから彼以上に私を傷つける人は現れていない。今後もそうであってほしい。

私を傷つけて幸せになった彼らは言ったどんな人生を歩んでいるのか、知らないけれど勝手に生きて勝手に死ねば良いと思う。できるだけ間抜けな死に際だと助かる。

私はそうして平穏に過ごしていたが、ある日YouTubeを呑気に観ていると浮気した元彼が突然CMに出てきて戦慄が走るのはまた別のお話。

私の失恋の因果は続いていく。