高校3年生の夏、人生で初めて彼氏ができた。彼とはアプリで知り合った。お互い「誰かと会って話したい」という気持ちがあり、軽い気持ちで会うことになった。その日のうちに、彼は私に「彼女になってほしい」と言った。

突然すぎる告白に、私はただただ戸惑った。人生で一度も人と付き合ったことがなかった私は、恐る恐る断った。しかし、1か月後自然と連絡を取り合い再び会うと、彼はあの時以上に情熱的に迫ってきた。「お願い、付き合ってほしい」と。私はその熱意に押され、初めて恋人を持つ決断をした。心の奥で、未知の世界に足を踏み入れる期待と不安が渦巻き、胸は高鳴っていた。

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しかし、交際が始まると、現実は期待を遥かに超えて苦しかった。彼はモラハラやDV、浮気が日常茶飯事の人だった。

浮気相手の人妻に貢ぎ、お金に困った彼は、ガソリン代やホテル代、ご飯代まですべて私に負わせた。私は高校生で、アルバイトのお金は限られていた。それでも彼の前では自分の不満を口にすることも許されず、ただ笑って頷くしかなかった。

何度も「もう無理」と別れを切り出しても、彼は泣きながら私に縋りつき、決して別れを受け入れなかった。その度に私は葛藤した。心のどこかで「彼を許してはいけない」と思う自分と、「やっぱり好き」と揺れる自分。

あの頃の私は男性経験のない少女だった。だからこそ、彼のすべてを「恋」という幻想で覆い隠し、許してしまったのだ。それでも彼のことが大好きで大切で、たまらなく愛しかった。付き合っている間、楽しかった瞬間ももちろんあった。彼と笑い合った日々、手をつないで歩いた帰り道、夜中にアイスを買いに二人でコンビニへ走ったこと。そういう瞬間を思い返すと、胸がぎゅっと締め付けられるほど切なく、幸せだったことも確かだ。

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だからこそ辛い現実を突きつけられるたびに、「私がもっと我慢すれば、きっと彼は変わってくれる」と自分を騙し続けていた。付き合って2年半、私は20歳の秋を迎えた。ある日突然、彼から電話がかかってきた。

「お前のこともう好きじゃないから別れよう」言葉が胸に突き刺さった。頭が真っ白になり、心が音を立てて崩れていくのを感じた。「なんで?私はこんなに貴方のことが好きなのに」と、気づけば私が泣いて縋っていた。別れてから半年、彼のことを思わない日は一日もなかった。理不尽で苦しい日々を過ごしたはずなのに、思い浮かぶのは楽しかった思い出ばかりで涙は止まらなかった。

振り返ると、あの恋は「愛」とは程遠いものだった。私の中の「大好き」という感情は、次第に依存に変わっていた。自分の感情を押し殺し、相手にすべてを委ね苦しさに耐える日々。

そのつらい恋を経て、私は自分を見つめ直すことになった。そして今、あの経験が私に教えてくれたことは、自分の価値を見失わずに生きることの大切さだ。誰かに依存せず自分の心に正直に、芯を持って生きる術を身につけることができた。

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あのときは「しんでしまいたい」と思うほど苦しかった。けれど、その痛みを乗り越えたからこそ、私は自分自身を守れる強さと自立を手に入れたのだ。つらい恋の先にあったのは、甘く切ない初恋の記憶ではなく、私自身を大切にする力だった。悲しみも涙も悔しさもすべてが私を育て、今の私を形作る糧となった。あの恋を経験したからこそ、私は愛されることだけに頼らず、自分の人生を自分の手で生き抜くことができる。つらい恋の先には、愛ではなく強さと自由、そして自分を信じる力が待っていたのだ。