スマホかくれんぼ事件。イタズラな甥っ子たちとの忘れられない夏
(あ~やっと静かになった……)
ヘトヘトの体にムチ打ち、床に掃除機をかける私。
7歳と4歳の甥っ子はまさに<暴れん坊チビ将軍>で、走りまわるわ、ものを投げ合うわ、ケンカして泣くわ、飲食物をこぼすわと、家じゅう盛大に散らかしまくった。
いつもは長くても3泊程度なのに、今年の夏は親たちの都合で10日も滞在。先ほど迎えに来た姉の車で「バイバ~イ」とにぎやかに帰って行ったが――疲労困憊したじいじとばあば(私の両親)は、そのままダウン。
よって私ひとりが後片付けをしているワケだ。
そんな独身のおばは<ヤツら>にとって格好の遊び相手で、毎日付き合わされた。
「庭でサッカーしよう」(長男)
「やちゅ~(野球)がいい」(次男)
「花火したい。車でお店へつれてって」(長男)
「ぼくは『ガリガリ君』食べた~い」(次男)
都会のマンション暮らしのせいか、自然に囲まれた田舎の一軒家はパラダイスだったのだろう。虫とりやプールや磯遊びにも付き合わされ、次の仕事までの休養期間のはずが、オソルベシ学童保育状態に。
よって帰ったさみしさよりも安堵感の方がずっと強く、とっとと掃除を済ませて体を休めたかった。
ところがようやく片付いてホッとしたとき、固定電話が鳴った。
出ると甥っ子(長男)の声で
「おーちゃん(私のこと)、ぼくだよ~」
バックには車の走行音。姉のスマホでかけているらしい。
「どうしたの?」
忘れ物でもしたかと嫌な予感。彼はクフフと笑うと
「ゆーちゃんに代わるねえ」と次男へ代わった。
すると今度は
「あのね、おーちゃんのスマホ、かくれんぼしてるよ~」と得意げな甲高い声が。
「かくれんぼ?」
「頑張って見つけてね。バイバーイ」
そのままプツッと切れた電話。
あっけにとられた私は(や、やられた……)
そう、10日間の滞在中、1日だけ雨が降った。
家の中でゲームや鬼ごっこ、かくれんぼをして遊んだが、さほど広くもない家では人が隠れるスペースも限られている。
そこで思いついたのが、『ものかくれんぼ』。
私がもの(おもちゃの変身ベルトやぬいぐるみ)を隠し、ふたりに探させた。わかりにくい場所なら時間が稼げて体が楽だし、何より夢中になってくれるから一石二鳥。
(しかし、よりによってスマホを隠すとはあのガキども……)
ためしに固定電話でスマホへかけてみたが、電源を切ってあるのかウンともスンともいわない。
私はため息をつき、部屋を見まわした。
(あのふたりが隠すとしたら――)
ソファーの下、サイドテーブルの引き出し、テレビの裏、クッションカバーの中……etc。家じゅうの低い場所を探しまくったが、見つからない。
そのうち疲れてウンザリしてきた。
(ま、いいか。とにかく寝よう)
そのまま夕方まで泥のように爆睡し、夕食後に捜索を再開。しかし両親と手分けして探すも、一体どこへあるのやら。姉に連絡してふたりの口を割らせる手も考えたが、なんだか癪だし、間違いなく叱られるから可哀想だ。
(よし、こーなったら絶対に見つけてやる!)
だが深夜になっても発見に至らず、翌日もひたすら探したが出てこない。
24時間以上が経過し、さすがに私もヤバイと焦りはじめた。
(電話やメールが溜まってるよね、きっと……)
そのときチャイムが鳴り、顔馴染みの宅配お兄さんが顔を出した。荷物を渡し、玄関に飾られた犬の置物に目を留めた彼は「アレ?」と首をかしげ
「あのワンちゃん、背中になんかしょってますね」
「えっ?」
ふり向くと、たしかに犬の首に黒いものが巻きついている。配達員さんが去ったあと慌てて取り外すと、それは父の靴下。四角に膨らんだ中身は――。
「あった!」
出てきたのは、電源の切られた私のスマホ。
背後で両親が涙を流して笑い転げていた。
その『スマホかくれんぼ事件』から歳月が流れ、いまやスマホが手放せぬ学生となった甥っ子たち。
たまに遊びに来ても昔の可愛らしさはどこへやら。久々に会った身内と話すより、スマホを見ている時間の方が長い気がする。
ただどちらも私のスマホをかくしたことは覚えているらしく、いまも鎮座している玄関の犬を見て、照れくさそうに笑っている。
これが私の『24時間スマホから離れてみた体験記』。
教訓など何もないけれど――ま、忘れがたい思い出かな。

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