探さないでください。スマホの電源を落としてひとり仙台へ

高校3年間、1日たりともSNSを欠かさなかったわたしが、久々にスマホから離れたのは大学1年のとき。
わたしは双極性障害を患っている。高校2年の頃に大きな抑うつ症状を経験し、それからというもの「躁」と「うつ」を繰り返していた。大学に入り、環境がガラッと変わったタイミングで、さらに発作が目立つようになった。
「うつ」のときには学校に行けなかったり、課題を提出できずに単位を落とした科目もあった。学校のカウンセラーさんや先生に相談しながら、それでも4年で卒業できるように、と頑張る日々だった。
思うようなスタートを切れなかった学校生活で、「どこか遠くに行きたい」という思いが芽生えた。今いる環境がすべてではないはず。どこか違う場所で、やり直せるんじゃないか。勢いで、仙台行きのチケットを買ってみた。日曜に出発して、月曜の5限に合わせて帰るプランを立てた。それが、「スマホ無し旅」の発端だった。
新幹線に乗ると同時に、スマホの電源を落とした。せっかく逃亡するなら、地元の人間関係に縛られたくなかったのだ。探さないでください。ホテルまでの行き方だけはメモしてある。あとはどうにでもなれ。しかし、初めてのひとり旅でもあり、不安でいっぱいだった。降り忘れたら困ると思い、一睡もできないまま仙台に到着した。
改札を出ると知らない街が広がっていた。知り合いなんて誰もいない。わたしは何者にでもなれるんだ。開放感とワクワク感が膨れ上がった。地図もないので、とりあえず適当に街を歩いてみる。駅に戻り、ロータリーで適当なバスを捕まえて、適当なバス停で降りてみる。そこは地元にもありそうな住宅街だったけれど、なぜだか、今でも強烈に印象に残っている。
歩いていると駅を見つけたので、地下鉄で仙台駅まで帰ることにした。南北線と東西線って、全国どこにでもあるんだろうな。仙台駅まで戻るつもりだったけれど、二駅手前で降りてみた。地上に出ると大きな並木道が伸びていた。これがあまりに素敵で、しかもそんな並木道がそこら中にあって、仙台の街を好きになった。まさかこれがきっかけで、後に仙台に住むことになるとは。
夜は、路地にひっそりと佇む牛タンのお店を見つけて入り、駅ビルでなんとなく見つけたお店でずんだパフェを注文してみた。笹かまぼこを買ってホテルでの夜食にした。
翌朝は、リサーチしておいた仙台朝市に向かって出発した。でも、いざ行ってみると場所がわからなくなってしまった。スマホを使わないと決めていたので、仕方なく通行人の方に声をかけてみた。とても親切で、朝市まで連れて行ってくれた。朝ラーメンをいただき、電車で松島へ。あいにくの雨だったが、そこで見た海が綺麗だった。初めて挑戦したネギトロ丼が美味しかった。
そんなこんなで無事に帰ることができ、大荷物のまま5限に出席した。勢いで旅を決行するほど辛いのに、大学にちゃんと行くのだから自分は真面目なんだろうと思う。でも間違いなく、行ってよかった。仙台に出会えたことも、スマホから離れたおかげで人の親切心に触れたことも。遠くの街で、違った日常を知ってわたしの世界は広がった。知り合いひとり居ない街で、わたしはあの日を生きることができた。よし、明日からもこの街で頑張ろう。
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