世間体を気にして踏み出せなかったあの日、彼は「友人」になった

数年前の肌寒い日、共通の友人のホームパーティーで彼に出会った。
初めて言葉を交わすはずなのに、会話のテンポが心地よくその夜はずっと彼と喋っていた。
そこから時々飲みに行く間柄になり徐々に惹かれていった。会っていないときでも彼のことを思い出していた。
私と彼には年齢差がある。私が年上だ。もちろん未成年ではないもののその年齢差は世間的にはわりと大きめであった。
世間体を気にしてしまった私は、彼に対する感情に蓋をして、その後もただの一人の友人として関係を続けていった。
そうこうしているうちに私は年齢の近い方と交際を始めた。
ある日、共通の友人のホームパーティーで二人でバルコニーで煙草を吸っていると、彼に恋人ができたこと、それと私に好意を寄せていたことを打ち明けてくれた。
私に恋人ができたから、もう吹っ切れて別の方とお付き合いすることを決めたそうだ。
話を聞いている間、吸っていた煙草を吸う心の余裕もなくほとんどを灰にしてしまった。
その恋人というのが私も仲の良い女性だったのが、とどめの一撃だった。
その告白の後、お互いに恋人がいるからこそ純粋にただの友人としてこれからも仲良くしていきたいと彼は言った。
その申し出に、ほかの人と交際をしているものの彼に対する好意を捨てきれない私は断れなかった。
その後も友人関係を続けた。
暗黙の了解でお互いの恋人についての話題は避けていた。
だけどふとした瞬間に携帯の待ち受け画面の写真や、カレンダーアプリに入っている予定が見えてしまったときに心がざわつくのが止まらなかった。
恋人がいるのだから、心をざわつかせるんじゃない!と己に言い聞かせても感情だから止められない。
彼の恋人が、彼に夢中であることはSNSの投稿で伝わってきた。
そんな彼女に対する愚痴を、信頼してくれているからこそ私に言ってくるのが辛かった。
あの時なんで世間体など気にせずもう一歩踏み出せなかったのか。
後悔してももう遅い。そして私も恋人のことを愛していた。
だけど彼への好意も捨てることができないから友人として会ってしまう。
でも会うたびに心がざわつく。地獄の無限ループに入ってしまったのだ。
彼に会うことはまるで自傷行為のようだった。
ある日その彼の恋人と偶然街で出くわしてしまい、ちょっとばかり世間話をした。
会話しているうちに、私の将来の夢と彼女の夢が一緒であることを知った。
その夢を抱く人物になかなか会うことがないため私たちは意気投合した。
この瞬間だった。彼と会うのをやめようと決断した。
その日のうちに彼にメッセージで今後会いたくないと伝えた。
彼からすれば突然何を言い出すんだ、という感じだったと思う。会って話そうと言ってきた。
会ったら私の気持ちが揺れるのは目に見えていたのでお断りしてそれから今まで会っていない。
SNSはつながっているので、彼とその彼女が今でも幸せそうに過ごしている様子を見ていると、あの時の私の決断は正しかったんだと思える。
かがみよかがみは「私は変わらない、社会を変える」をコンセプトにしたエッセイ投稿メディアです。
「私」が持つ違和感を持ち寄り、社会を変えるムーブメントをつくっていくことが目標です。
恋愛やキャリアなど個人的な経験と、Metooやジェンダーなどの社会的関心が混ざり合ったエッセイやコラム、インタビューを配信しています。