大人になって新たにできた友人は、そこまで多くはない。職場の同僚複数人と留学先で出会った人。これらは自分が身を置く環境を変えたからこそ生まれた出会いである。つまり大人になり、子どもの頃と大きく変わったことは、自然に環境が変わるというタイミングがなくなり、自分から行動を起こさないと何も変わらないという部分である。

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子供の頃は成長とともにクラスが変わったり学校が変わることで、新たな出会いが数年に1度は必ずあった。新たな環境で以前から仲の良かった友人と引き続き過ごすこともあれば、新しく出会った気の合うクラスメイトと仲を深め、後に友人となるなど、付き合い方は様々だが、自分が学生の頃は新たな出会いが必然的に生じていた。

しかし、社会人になると環境が自然と変わることなんてない。就職し新入社員として働き始める時は、新たな環境に足を踏み入れることになる。このタイミングでよく関わるメンバーに気の合う人がいれば、その人とは仕事だけでなく、プライベートの時間も共有する関係性になり得る。または営業で新たな人間関係を形成するようなポジションであれば、そこで友人を作るというチャンスがあるのかもしれない。

しかし仕事によっては限られたメンバーとしか接する機会がない場合も多い。そのような仕事に就いた人々がその後新たな出会いを職場において求めるには、異動もしくは退職し、他の環境に身を置く必要がある。

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私の元職場は病院の厨房であったため、基本的に関わるメンバーは固定であった。プライベートではパーソナルジムに通ったり、旧友と飲みに出かけたりすることはあったが、当時の私は仕事で疲れ切っていたため外部の付き合いは最小限にしており、特別新たなコミュニティを開拓することもなく日々を過ごしていた。そのため社会人になってからの新たな友人は職場の同僚だけだった。

留学先では移動生活を好んでいたため環境の変化が頻繁だったこともあり、新たな人間関係構築が苦手な自分でさえ、短期間で友人が出来ていた。語学学校のクラスメイトや、シェアメイト、職場の同僚や上司と接する時間の中で、自分ができる限りの簡単なコミュニケーションをはかり、放課後や仕事後に食事や買い物、映画に行った。留学中は普段よりも積極的に行動出来ていたように思う。そして現在は少人数の職場にいる。初めは少し息の合わないタイプかも…と心配だったが、毎日顔を合わせコミュニケーションをとっていると自然と相手の特徴を理解し始め、仕事もしやすくなり、友人と呼べるほどの仲になった。

過去の経験から友人として深い関係を築くために必要な要素は、ある一定期間接点を持ち続けること、お互いに接しやすいかつ気持ちよくコミュニケーションを取れる関係であること、趣味嗜好が似ていて共通の盛り上がれる話題があることなどが挙げられる。第一印象である程度接しやすいか苦手なタイプかは想像がつく。そこから徐々に他愛のない会話を繰り返し、自分と相手の程よい距離感で関係を築いていく。そして大人になってからの友人の特徴として挙げられる点は、自分の過去を全て知る人はそう多くないということ。少なくとも自分には幼少期からの全ての出来事を知っている人はいない。悪く言えば隠蔽できるとも言えるが、そもそも全てを伝える必要がない。

もちろん話さざるを得なくなった場合、相手の信頼も失わないために打ち明けなければならない時もあるが、二十数年も生きていれば、人生に様々な出来事が起こる。誰にだって話したくない過去の一つや二つはある。

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よく言えば都合のいい関係を構築できるのも大人の友情なのだろう。それでもお互いに支障なく、程よい距離感で付き合える間柄が複数あればこの世界は多少生きやすくなると思う。しかし、その関係性に虚無感が生まれる瞬間もあるだろう。