コンプレックスが導いた挑戦。歌を通して掴んだ「親子の絆」

私のコンプレックスは「歌が下手」なことです。小学生から音楽の授業ではいつも声が震え、クラスメイトの視線が痛く感じられました。中学・高校と進むにつれ、コーラスコンクールの練習は毎回憂鬱でした。パート練習で自分だけ音程が合わず、仲間と足並みをそろえられない焦りから、つい本番を欠席して休んでしまったこともあります。
「歌うのが楽しいはずなのに、どうして私はこんなに歌が下手なんだろう…」と自己嫌悪に陥る日々でした。
そんな私が、大学生になって一歩を踏み出しました。歌のマンツーマンレッスンに通い始めたのです。決め手になったのは見学の時に先生が優しかったことです。初回レッスンの日、緊張で手のひらに汗をかきながら部屋に入ると、先生はにこやかに迎えてくれました。
「大きな声で笑って歌えばもっと楽になるよ」と言ってもらい、1時間のレッスンがあっという間に感じられました。発声練習では、低い声から高い声まで自分の声域を確かめ、リズム練習では体を揺らしながらマイクを握る楽しさを知りました。
レッスンを重ねるうちに、少しずつ変化が生まれました。最初は「音程が合うだけで奇跡!」と思っていたのが、気づけばワンフレーズごとに自分の声の抑揚や強弱を意識するように。大きな声を出すことが気持ちよく、毎回レッスンに通うのが待ち遠しくなりました。
そして、スクールの小さな発表会にチャレンジしました。選んだ曲はフィンガー5「学園天国」です。イントロが始まった瞬間、自然と足でリズムを取り、マイクを握った手に力が入りました。客席から掛け声が聞こえ、会場は一体感に包まれていました。後日、敢闘賞をいただき、「私にもできた!」という自信が胸に芽生えた瞬間でした。
その成功体験をきっかけに、私は母をカラオケに誘いました。最初は照れくさそうに遠慮していた母も、一度マイクを握ると次第に笑顔に。母は帰宅後、「もっと歌を上手になりたい」とボーカルスクールを探しました。
母も違う音楽スクールでレッスンに通い始め、私と同じように発声やリズム練習を楽しんでいます。今では曲選びや練習方法をお互いにアドバイスし合う仲に。母娘で歌を通じたコミュニケーションが増え、家の中に音楽があふれるようになりました。
今年の12月には、音楽仲間や家族が集まる忘年会で、親子デュエットを披露する予定です。選曲はまだ検討中ですが、衣装や演出も一緒に考え、少しずつリハーサルを重ねています。
かつて「歌が下手」というコンプレックスに悩んでいた私ですが、今では「歌うことが大好き」という気持ちを原動力に、学びを続けています。そして、コンプレックスを克服する過程で得た自信や喜びを、家族や仲間にも広げられたことを何よりも誇りに思います。
「歌が下手」という悩みは、私にとって一生の足かせではなく、むしろ人生を豊かにしてくれるアドバンテージへと変わりました。これからも歌を通して自分らしさを追求し、誰かに勇気や元気を届けられる存在になりたいと強く願っています。
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