あっと思ってスマホを起動させた時、「まさかここまでとは」と、自分の考えの甘さに衝撃を受けました。20時20分に「これからスマホを使わずに24時間過ごそう」と決めて、スマホをバッグに入れたばかりなのに、いま画面に映る時間は、20時21分。1分かぁ、と思いました。たった1分で挫折するなんて、と。

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大学生になる時にスマホを買ってもらってからというもの、これまでの人生でスマホから24時間以上離れた記憶は、思えばありません。でも、あくまでもスマホは連絡手段。離れようと思えば離れられると私は思っていました。

急ぎの用事がなければ、友人たちにわざわざ宣言しなくても、特に問題はないはずとも思っていました。初めての場所に行くのでもなければ、スマホなしでも特に困らないだろうとたかをくくってもいました。

音楽が聞きたくなっても家にはCDがありますし、映画が見たくなっても、DVDで見ればいいのです。お菓子作りのレシピは先に調べておけばいいですし、家族への連絡などが必要ない日にスマホから離れれば、誰にも心配をかけないはず。後は、自分が「スマホを開かない」と決めるだけ。の、はずでした。

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仕事終わりの、20時過ぎ。これから24時スマホが使えなくなるなら、とひたすらに友人たちに返信をし、「もうこれで大丈夫」とスマホを閉じた時でした。あ、と思いました。このままだと、明日、アラームが鳴るな、と。

それだけではありません。ふと、明日行こうと思っていたお店のことが頭をよぎりました。欲しい商品が店舗に在庫があるか調べてから行こうと思っていたのですが、それは、スマホが使えないと調べられません。最悪電話でも思ったものの、お店の電話番号など覚えているわけなどありませんでした。

アラームだけは止めようとか、調べものだけはしようとか、その間に来た友人のメッセージに返事をしようとか……。気がつくと、私はスマホから離れるどころか、どっぷり使い始めていました。

そして、やっと気がついたのです。スマホが、私の生活に、深く根を張っていることに。

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スマホのアラームで起きて、どこかに出かけるなら、時刻表をスマホで調べて、一緒に出かける人がいるなら、その人にメッセージを送って、途中でお店に寄るなら、そこでポイントカードを出して……。

何かの予約をするのも、ちょっと計算するのも、家計簿も、スケジュールも、みんな、スマホに頼ってました。今も、この文章はスマホで打っています。そう、何かを思いついた時のメモも、スマホなのです。

これだけ頼りきっている相手から24時間離れることが、いかに難しいことか、ちょっと頭がくらくらするほどでした。

結局、私は翌朝8時30分までの、12時間だけ、スマホから離れることに成功しました。といっても、そのうちの7時間近くは寝ているので、自分の意思でスマホから離れることに成功したのは、実質5時間程度です。

それすらもずいぶん長く私には感じられたので、このチャレンジは惨憺たる結果だったと言っても、過言ではないでしょう。

でも、収穫もありました。それは、スマホを意識的に使うようになったことです。音楽を聞く、写真を撮る、エッセイを書く、ものを買う、ポイントカードをつける、何かを予約する、誰かに連絡する、家計簿をつける……。これらは言うまでもなく、全てスマホでできることです。でも、同時に、スマホがなくてもできる(できた)ことばかりです。

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「本当に、スマホでないとダメ?」

少しでも長くスマホから離れようと、私は何度も自分に問いかけました。「今じゃなくてもいい、スマホじゃなくてもいい」と考え直すことで、少しでもスマホから離れようとしたのです。

でも、あまりにもスマホは、私の生活に深く入り込んでいました。今すぐ、「24時間離れる」というのは、今の私には難しいということも分かりました。

情けないなぁと思いながらも、いつか、「まぁ、しょせん連絡手段の1つだもの」と、あっさり離れられるようになりたい。そんな新たな理想が私の心に浮かびました。