初めてできた職場の先輩は、いつしか本音で語り合える友達へ

彼女のことを「先輩」と呼ぶべきか「友達」と呼ぶべきか、今となってはわからない。もはや肩書きなど必要ないのかもしれない。会社を退職した彼女と次に会うとき、彼女はどんな顔をしているのだろう。
私が新入社員として配属された営業所の、一番歴が近い、初めての先輩が彼女だった。彼女にとっても初めての後輩だった。
高校を出たばかりの私は、文字通り右も左もわからなかった。それを手取り足取り、何でも教えてくれた。ホチキスの針の替え方まで教えてもらったくらいなので、当時の自分にはほとほと呆れる。
当時他部署の人に片思いしていたため、恋愛相談にも乗ってもらった。
化粧も始めたてだったので、よくアドバイスしてもらっていた。
「所長はここあまり見ないから、付箋をつけておくといいよ」など、細かな気遣いの仕方まで教えてもらった。私の仕事の礎を作ってくれたのは、間違いなく彼女だ。
二人で仕事終わりに、中華を食べに行ったことも何度かある。美味しい中華を食べながら、いつまでも話していた。
私が配属されてから半年後に、彼女は他部署に異動することが決まった。だから実際に同じ職場で働いていた期間はたった半年だ。でも二人で過ごした時間は、たった半年と思えないほど濃かった。あまりにも楽しいときも大変なときも共に過ごした。
彼女が営業所にいる最後の日、有名ブランドのピンクのアイシャドウをプレゼントしてくれた。いわゆるデパコスを手にするのが初めてだったので、本当に嬉しかったし、これが似合う素敵なレディにならなくてはと思った。
彼女が異動してから、年単位で会わなかった。異動して間も無く、コロナ禍に突入したからだ。気軽にご飯に誘えるご時世ではなくなった。
やがてコロナが落ち着き、私がお酒を飲む姿を初めて見た彼女は、退職することが決まっていた。会社を休職していた私に、同期が彼女の退職を教えてくれて、飲みの場を設けてくれた。
その日店に姿を現した彼女は、あの頃と何も変わらなかった。
ずっとニコニコと笑顔を振りまくその顔も、優柔不断な私を差し置いてサクサクと注文してくれるのも、あの頃と変わらなかった。
一方、私はあの頃と違い、右も左もわからない子供ではなくなっていた。もちろんまだまだ彼女には及ばないが仕事もそれなりにできるようになったし、ピンクのアイシャドウを使いこなせるようになった。彼女は私に、「レディになったね」と言ってくれた。
だからその後の二人きりでの二次会で本音で話し合う私たちは、もはや先輩後輩の上下関係はなく、対等だった。
そして後日、彼女はさらりと会社を辞めた。
今はもう、同じ会社ではない。彼女は先輩ではない。それでも次に会うときは、またピンクのアイシャドウを纏って会いたい。
かがみよかがみは「私は変わらない、社会を変える」をコンセプトにしたエッセイ投稿メディアです。
「私」が持つ違和感を持ち寄り、社会を変えるムーブメントをつくっていくことが目標です。
恋愛やキャリアなど個人的な経験と、Metooやジェンダーなどの社会的関心が混ざり合ったエッセイやコラム、インタビューを配信しています。