大人になってからの友情と人生の楽しさを教えてくれたのは推しだった

「最初の研修で出会った同期とは今でも連絡を取ったり集まったりして近況を報告しています」
研修講師が話すのを聞いて、そんなの綺麗事だろう、と思っていた。しかし、そこで出会った同期が、私の日常にたびたび登場する友人となった。
グループが一緒のその人を初めて見たとき、AKB48のMちゃんみたいだな、と思った。ショートカットでクールな目をしていた彼女は、当時のAKB48の中でもイケメン枠だった個性あるMちゃんのような雰囲気をまとっていた。研修講師に促されるままグループで自己紹介をし、休憩時間に入ったとき、彼女から「私もアイドル好きなんだよね」と言われた。AKBだとMちゃんが好きかな、と言われたときの衝撃を忘れられない。
それから、数ヶ月に1回の研修で顔を合わせるたび、アイドルネタをぽつぽつ話すようになっていた。黄金期のAKB48なら知ってるんだけど…と言われることも多いなか、最近のアイドル事情に詳しい稀有な存在に感動を覚えた。
そんな彼女との仲が一層深まったきっかけは、彼女がその当時もっとも熱心に追いかけていたハロー!プロジェクトのグループを紹介されたことだった。研修のあったその日は互いに、推しているグループのCDを渡しあおうという口約束をしていた。CDを交換し、一緒に昼食をとっていると、彼女がおもむろにアクスタ(アクリルスタンド:透明なアクリル板にアイドルの全身画像が印刷されたグッズ)を手に、料理を背景に写真を撮影し始めた。「この子が今一番推しているRちゃん。覚えてね」「可愛い!注目するわ」という会話をしたものの、多分すぐ忘れるんだろうな、という自分の予想を、私は自分で裏切った。公式動画やファーストテイク動画を見ている間に、いつの間にか私も虜になっていた。
そこから、彼女は同期からヲタク友達になった。聖地巡礼をしたり一緒にイベントやコンサートに行ったり。来年度の新卒でどの元アイドルが入ってきたらうれしいか妄想したり、会っていないときも新しい情報を共有したり。推しがグループを卒業を発表するという人生初めての経験もしたが、その推しを紹介してくれた彼女が自分以上に落ち込んでいるのを見て共感し、自分を奮い立たせることで衝撃を乗り越えることができた。
彼女にハロー!プロジェクトを教えてもらって世界が広がった。AKBグループにはない文化を知るのも新鮮だったし、全く異なる色を持つ各グループの沼にのめり込んでいった。何よりも、推し活も日常もマンネリ化していた私に新たな活力をくれ、外に出るようになっていた。遂にはヲタク主催の会合に参加するまでに。たくさんのご縁をくれた彼女に感謝したい。
学生時代は毎日同じクラスや学科で過ごす人が友人になっていき、また、部活やサークルに所属することで価値観や嗜好の合う友達をつくれていた。社会人になると、同じ職場にいるだけで友人関係になるということはない。でも、自分の「好き」を貫き「好き」でつながることで豊かな友人関係が広がる。大人になってからの人間関係と人生の楽しさを教えてくれたのはアイドルだった。
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