「りあ、お弁当作ってきたの?それおいしそうだね!」
そう言って、隣の席の先輩が声を掛けてきた。いつもはコンビニでさっと済ますか、ランチに出かけるかの二択の私が、お弁当を作ってきたのがよほど珍しかったらしい。
「いつも忙しそうなのに頑張るなー、さては男でもできたか?」
私はにっこり笑って「いや、特に。なんかちゃんと野菜とか栄養考えて食べようと思って」と返す。
本当にそうなのだ。なんとなくずっとコンビニとかランチとかで、食べた野菜といえば定食についてるキャベツの千切りくらい。緑黄色野菜とか食べてない。野菜ジュースはあまり好きではないので、じゃあ自分で野菜を買ってきて食べようと思った。それだけなのだ。
「男ウケ」を狙って作ったお弁当じゃなかったのにな…
先輩は更に話し続ける。
「へぇ~、かぼちゃの煮物とか入れてるんだ。いいね。男ウケいいよ」
ん?なんでそこで男ウケの話が出てくるんだ?
さらに、反対隣にいた後輩の男の子も会話に加わる。
「いいなー、俺も結婚したらこんなお弁当奥さんに作って欲しいなー」「朝エプロン着けて料理してる後ろ姿見るのいいよなあ」
私の頭の中は、「んー、初めてネイルしたけどやっぱ最高にかわいい!けどそろそろ伸びてきたなー、次の予約取らなきゃ。この前のお姉さん良かったなあ、でもみんなあんな感じなのかな?指名料かかるし、指名するか迷うなー。もはやお店も変えてみたい気もするな...」と考えていた。
「りあ聞いてる?」
先輩に言われて我に帰る。全然聞いてなかった。
後輩くんは「今度僕にも作ってください!」と言ってどこか行ってしまった。
私何も言ってないし興味ないし。
お弁当作ってきただけで、男ができたのポイントが高いだのと、心底興味ないのですが...。
「女だから」料理くらいできないと…そういうの好きじゃない
そういえば、振り返ってみれば家では当たり前にお母さんが料理をしていたし、お正月には父方も母方も両方ともおばあちゃんが料理をしていた。
「りあも料理運んで」私はそう言われて手伝っていたし、一方で弟は「お手伝いして偉いね」と言われていた。
なにがこうも違うんだろう。
「女の人だから料理くらいできないと」と、マッチングアプリで出会った男性に言われたことがある。
二次会は行かずに帰った。面倒くさかったから。
とりあえず、“~だから〇〇”という話が好きじゃない。
過去の経験から相手のことをある程度推測してしまうことは仕方ないと思う。
長女や長男にしっかりした人が多いことはあるだろう。
でも、だからといって、それ前提で話が進むのは好きじゃない。
私は“長女”なのにしっかりしてないし、“女”なのに働くのが大好きだし、“若い”のに和菓子が大好きだ。
一方で、“若い女の子”らしく買い物が大好きだ。
傾向にきっと当てはまることの方が多いけど、一方で例外も多いわけだから、決めつけられたくはない。
肩書きや性別で決めつけるんじゃなくて、耳を傾けて伝えよう
「先輩、私は健康に気を遣おうと思ってるので、健康にいいお店あれば連れて行ってくださいね。あと、料理は女がするのが当たり前ってスタンスでいたら、奥さん悲しんじゃいますよ。主語が母親だから、女だからでくくっちゃだめだと思うんです。目の前のその人が、ある行動をしている、それだけで見るといいかもしれません」
先輩はしゅんとして「ごめんな」と言ってくれた。
先輩は悪い人ではないのだ。伝えたら、分かってくれる。
私も、レッテルを貼って誰かを傷つけていることがあるかもしれない。きちんと耳を傾けること、伝えること。それを意識していく。