「私のどこを好きになってくれたんでしょうか」
「あの……顔がすごく好きなんです」

新宿で飲みに行った帰り道。もうすぐお互い別の方向へバイバイしそうなタイミングで、少し緊張した相手から突然好意を伝えられた。
「付き合ってください」と頭を下げられ、手を差し出された後、時間が止まったように感じた。

告白してきた彼が、私の「どこを好きになってくれたのか」気になった

個人的には、できたら友達でいたかった。出会ったときから、そういう感情は全くなく、お互い“話しやすい人”程度だったように思う。でも、相手からしたら私は好意の対象だったようだ。

やはり食事に行ったのがまずかったのか。でも、友達だったら飲みに行くのは普通じゃないのだろうか。そんなことが頭の中でぐるぐる浮かんでは消える。

……「友達でいたい」とはっきりと言おう。そう思って告白の返事をしようとしたとき、ふと私のどこを好きになってくれたのかが気になった。もし、私が気づいていないような部分を知ってくれているのなら、ひょっとすると心が動かされ、貴重な出会いになるかもしれない。不躾ながら、質問をする。

「……お気持ちとっても嬉しいです。ちなみに、私のどこを好きになってくれたんでしょうか?」こんなことを聞く女性はどのくらいいるんだろうなぁなんて思っているときに、相手がパッと顔を上げて嬉しそうに答えた。

「あの……顔がすごく好きなんです」
ああ、やっぱり聞かなければ良かったなぁと、唇を軽く噛む。

「顔が好き」って言われると嬉しいけど、なんだか悲しかった

「顔が好き」と言ってもらえることは、個人的にとても嬉しい。やはり容姿を褒めてもらえるのは自信になるし励みになる。だから、自分のために日々ケアはしている。

私は、決して美しい顔立ちではない。いたって平凡だ。ただ年齢を重ねるたびに、身なりに力を入れることは自分を幸せにするおまじないだと気づいたので、外に出かけるときは、化粧をするし髪の毛も巻く。服装もある程度は気をつけている。

そんな自分のためのおまじないを、相手にとって「好きな理由1位」だと言われるのが、嬉しいけれど、なんだかとても寂しく思えた。

結局、見た目かぁ。何度か食事にも行っていたし、LINEのやりとりだってしていたのに。共有した時間が、たった1日なんてことでもないのに。なんで、“顔”だけなんだろう。この人も、表面だけしか見てくれなかったのか。

女性が身なりを整えるとき。もちろん恋人に喜んでもらうためという理由もあるだろう。でも、1番は自分のため。自分が元気になるため。自分の気持ちを上げるため。その努力を好きになってもらえるのはとても嬉しい。でも、この努力はあなただけのためじゃないんだよ。私のためなんだ。

嘘でもいい。マメな人、丁寧な人、自分をハッピーにさせるのがうまい人、楽しそうに生きている人、挨拶をちゃんと返す人とか…あぁ、もうなんでもいい。好きになってくれるのなら、その先にある人間らしい部分も見てほしかった。

必死に「努力」をしているから、一言で片付けないでほしかった

容姿を整えるのは、結局その人の性格が出ると思うから。男性だってそうじゃない。コンプレックスに負けないために日々スキンケアをして、ダイエットをする。食生活に気をつけて、香りに気を配って、清潔感のある服を選んでいるじゃない。頑張っているじゃない。

「生まれつき恵まれているよね」なんてもう、いい大人になった今は言えない。みんな身なりを整えるために、必死に努力をしているんだよ。その努力をパッ見て「好きだから」なんて一言で片付けないでほしかった。あなたも、私も。

「顔が好き」と言われるたびに、嬉しいけど寂しくなる。できるなら、その少し先を見てほしい。性格や行動など、温かみがある部分を知ってほしい。

差し出された手を握り返すことはできず、帰路につく。

そうだ、今日はうんと温かいお風呂に入ろう。その後にちゃんとスキンケアをしてストレッチと筋トレもして、24時までには寝るんだ。明日の私も元気でいられるように。