陽にあたり、目を細めるうちの猫。ああ、本来あるべき猫の振る舞いだなあと思った。

約3年前。ペットショップでガラス張りの小さな箱の中で、生きていた。
私は軽い気持ちで目の保養のために…とペットショップに向かった。何気なくその小さな箱たちを上から下まで、右から左へと見て、この子可愛いな~あの子も可愛いな~と思っていた途中、彼と目が合った。彼をこちらを見て一言、「にゃあ。」と鳴いた。本気で飼うつもりで行ったわけじゃない。でも、「この子、抱っこしてみたいな。」と思い、その場にいたペットショップのお姉さんに伝えた。彼はとても小さかった。お姉さんは、「この子は食が細いんです。これでも産まれて5ヶ月なんですよ。」と言った。この5ヶ月の命が、たった5万円で売られていた。野良猫で生きる術を養っている子、保健所に居て期限のある中で懸命に生きている子たちと比べてみたら、値段がついているだけで良いことなのかもしれない。でも5万円で売られていることが、私には悲しく思えたのだ。

その瞬間に私はこの子を守りたいと思った

手のひらに載せられたこの子は、ここに来てから沢山の知らない顔に好奇の目で見られ、目が合っても逸らされ、抱えられても小さな箱に戻されていたと思ったら、いてもたっても居られず、自分の手が少しこわばった。その途端、彼は私の親指を噛んだ。指から血が出た。これは彼なりの意思表示なのか。お姉さんは、「甘えているのだと思います。」と言った。それが定かでは分からない。でも、こちらを見つめる瞳を見たその瞬間、私はこの子を守りたいと思った。これから先、猫の平均寿命と言われる約20年、自分の命をかけて守りたいと思った。

食欲と走る元気があるならそれで充分だと思った

飼ってからが勝負。ごはんは3回。カリカリをあげるのにはまだ早い体重だったので、キャットフードに少量の湯をかけてふやかし、粉ミルクと混ぜる。最初は遠巻きに見ていた彼も、段々と美味しい匂いにつられて少しずつ近付く。時間をかけてごはんに辿り着き、匂いを嗅いだあと、恐る恐る食べ始めた。お気に召したようで、どんどんと食べ進め、あっさり完食。ほっと胸をなでおろす。我慢出来なくなって触ろうとしたら、短い脚で走って逃げてしまった。ちょっと切なくなったが、食欲と走る元気があるならそれで充分だと思った。
徐々に、ゆっくりと体を大きくし、近くで寝てくれるようになった。撫でさせてくれるようになった。

側に居ながら、私達らしく歩んでいこうね

そして現在に至る。彼を初めて見る人たちは口を揃えて、「おっきいねー!」と頭を撫でる。あの時、大きく丈夫に育ってほしいと願った結果、言葉通りに、いや、言葉以上に育った。あの小さな命が、大きな病気もせずここまで育ってくれた。今日もひなたぼっこをして、大きな声で鳴いて、お腹を天井に向けて寝ている。寒くなると膝に乗ってきて、小さなクリームパンの様な前足でこたつ布団をふみふみ。チュールも大好き。ごはん、とか、おやつ、という言葉に敏感で、すぐに目をキラキラとさせる。撫でられると目を細め、手を離すともっと撫でろとすりついてくる。人懐こくて、男の子よりも女の子が大好きで。外見だけでなく、中身も彼なりに育っているのだなと思うと母は嬉しい限りである。

たまに、猫になりたいなと思うけど彼も彼の思いがあって生きているのでしょう。側に居ながら、私達らしく歩んでいこうね、と思う日々なのです。