この前の休日、お店で服を見ていて、隣の女性と自分が鏡に映っているのに気がついた。ふっと体の真ん中らへんが冷たくなった。彼女と私が明らかに何か違うことに気がついたからだ。一言で言うと、彼女は都会のどこに立っていてもおかしくない綺麗なお姉さん、隣に立つわたしはヤボったい高校生みたいだった。大学に入った時に母に買ってもらった上質なトレンチコートを着ていたから、トレンドではないにしてもひどい服装をしていたわけじゃない。家を出てきたときは、確かに服も髪も化粧も思った通りに整えたはず。そのときは、わたしはわたしをちゃんと好きで出てきた。でも隣の彼女と比べたとたん、急にものすごく悲しくなった。

劣っていると思いたくなくてマツエクを再開。それなのに違和感

違いは何か、ぼんやり考えながら帰った。ツヤツヤ綺麗な茶髪がきちんと巻かれていた彼女に比べ、私の茶髪はそろそろ色が怪しくなってきていたとか、思いつくのは色々あったが、一番気になったのは目だった。わたしは化粧が薄い。一重だからぱっちり二重にはどうしても勝てないという諦めもあるし、化粧が濃くない自分の顔の方がナチュラルで良いと思うのもある。でも、今日の彼女のくっきりぱっちりしたまつげを見て、自分の目はなんて小さくてかわいくないんだろう、とひさしぶりに落ち込んだ。

自分を劣っていると考えながら過ごすのはいやだ。そう思って、その日のうちに久しぶりのマツエクを予約した。マツエクは、毎日ビューラーを使うのが面倒くさくてしばらくやっていたが、顔をゴシゴシ洗えないのがいやで止めていた。しばらく、ビューラーすらしない目で過ごしていた。それもそれでやさしげでいいんじゃない?と思っていた。

仕事で疲れていたのでマツエク施術中は爆睡し、お姉さんの「終わりましたよー」の声で起きた。鏡をもらい、のぞきこんだ。思わず「え」と言いそうになった。想像していたよりおそろしくバチバチの目。あきらかに他のパーツとつり合っていない。前のマツエクのときとは違う店だから?しばらくビューラーすらしていなかったから見慣れなくて?いろいろ考えたがよく分からず、混乱しながらとにかく支払いを済ませて店を出た。

昨日とは違う意味でぼうぜんとして帰り道を歩いた。でも、歩きながら分かってきた。私はきっと明日、このまつげに合わせて他のパーツも濃いめに化粧をする。そして街中に出れば、たぶんわたしはこの目をそれなりに気にいるのだ。
みんなと同じだから。自分だけ違うという違和感を感じずにすむから。
なんなんだろう、結局わたしの「かわいい」はどこにあるんだろう。迷子やん、と思った。

海外留学中、化粧もせず髪もキシキシだったけど一番好きな自分だった

今まで撮った写真の中で、一番自分を好きだったときのことを思い出してみた。
南国の大学に留学していたときだ。そこの学生たちはほとんど化粧をしていなかった。暑いからどうせ汗で落ちるというのもあったと思う。
まゆもかかず、日焼け止めだけの完全すっぴん。髪も紫外線にやられて色むらがあったし、いつもキシキシしていた。でも、あのときの笑顔はいま見ても一番好きな笑顔だ。友達もそう。日本に戻って再会した時のきれいにお化粧した顔より、真っ黒に日焼けして笑っているあの頃の顔が一番、がむしゃらにかわいかった。

なんであんなに自然に、何も気にせず笑ってたんだろう。
「痩せた?」「ちょっと太った?」「今日化粧のり悪いなー笑」「その位置だと顔大きく見えるよ~」「背ちっちゃw」
日本で言われたこと、向こうでは誰にも言われなかった。
「足が太いのが悩みで」「まつげが短くてつらい」そんなことも誰も言わなかった。
Tシャツから伸びた二の腕が一見パツパツでも、脂肪の線が見えている足でも短パンをはき、とても楽しそうに彼氏と歩いていたクラスメートの女の子。
日本から遊びに来てくれた当時の彼氏はあの頃、ホテルでうつぶせになってごろごろしていた私のむき出しの足を見て、「ちょっと痩せた方が良いよ」と言ってきた。
「は?」と思っただけで、特にショックは受けなかった。その後別れた。
フェイスブックで私の写真を見ていた昔の友達からも、帰国後「太ったな~と思ってた」と言われた。「そうかな?」としか思わなかった。

自分の視線と他人の視線は別物。ごっちゃにしたくない

あのとき、わたし自身がわたしの見た目になんにも執着していなかった。
美人な子は当時もいくらでも周りにいたけど、「かわいいな」としか思わなかった。
それが今はどうだ。何も言われてないのに、きれいにお化粧したりスタイル抜群の友達といるとなんか居心地が悪い。釣り合ってないんじゃないか、とか考えてしまう。ボディポジティブにはほど遠い。むこうにいたときと同じように考えるのは、やっぱりむずかしい。

一緒に温泉に入った母親に「背中の肉すごいよ」とからかわれたこと。
彼氏に大きめのお尻をからかわれてキレたこと。
歯医者さんに「矯正すればもっときれいになれるよ!」と言われて複雑な気持ちになったこと。
自分だって、褒めてるつもりで友達に「やせたね!」と言い、母親には「おなか出てるよ」とからかい返したこと。

皆も私も全部、勝手にガーガー言っている他人だ。他人の視線だ。
自分の視線とごっちゃにしたくない。
だっであの休日の出かける前、私は私の目をちゃんと好きだったじゃないか。
今のマツエクが取れたとき、またつけるか、そのままいくか。小さなことだけど、ちゃんと一人で考えたい。