付き合って2年になる大好きな人から、念願だったプロポースを受けたとき、なぜか100パーセント喜ぶことが出来なかった。
「将来の夢はお嫁さんになること」なんて、子供の頃に嬉々として母に話していたくらい、私は結婚に憧れていたのに。結婚にはいつも幸せの象徴のような特別な響きがあったのに。
心から喜べない自分に心底困惑した。憧れだった結婚が、急に現実味を帯びたとき、嬉しくて飛び跳ねたくなる気持ちと同じくらい、焦りが混じったモヤモヤした不安を感じた。何か、今まで持っていたものを、失ってしまうような感覚。
それは、自身のキャリアに向けられたものだった。ちょうどその頃、働いていた会社に慣れてきて、新しいことに挑戦しようと異業種への転職を考えていた。だから、余計に結婚はまずいと思った。
結婚したら転職に不利。プロポーズを受けたらキャリアはどうなる?
だって、誰かから聞いたことがある。結婚したら転職に不利になると。例えば20代未経験候補者が2人いたとして、能力に大きな差がない場合、既婚者と独身者では、後者の方が有利になると。特に新婚者なんて、すぐに産休に入ってしまうかもしれない人として見られると。そしてこの話は全部、女性に限った話だと。
いつか誰かから聞いたこんな話を「そんなの関係ない」と一蹴できるほど、自信も経験もなかった私は、結婚が目に見えない足かせになるような気がして、ただただ不安になった。彼と結婚できるのは嬉しいけれど、私の転職はどうなってしまうのだろうかと。
「転職 結婚」とネットで検索して、出てきた記事を片っ端から読んでは、私はまた不安になる。そして、結婚を前に急ぐように転職活動をした。どうしても、独身というステータスのうちに転職をしたかったから。
運よく希望の仕事が決まり、新しい職場で働き始めた半年後、ようやく彼と結婚をした。プロポーズからは1年が経っていた。
新婚や育休中、妊活中でも転職出来るし、会社に捉われない働き方もある
新しい環境や人との出会いの中で、今の私はあの頃より、少しだけ見える世界が広がった。今振り返ってみると、私が感じた結婚に対する焦りや不安は、半分間違っていたように思う。確かに、結婚した女性を採用することに慎重な会社もあるかもしれない。だけど、そうじゃない会社もまた、確実にある。会社に囚われない自立した働き方だってある。
私の後から同じ職場に転職してきた女性は、新婚だった。既にチームでバリバリ活躍している。前の職場の先輩は、育休中に転職活動をして、念願の企業で働くことが決まったと連絡をくれた。新しく出会ったキャリアカウンセラーさんは、妊活していることをオープンにした上で、新たな会社に採用が決まったと話してくれた。大学時代の友人は、結婚したことで選択肢が広がって、フリーで働き始めたと聞いた。
「何だ、別に結婚しても大丈夫なんだ。」
不安だった私へ。結婚や出産を経ても挑戦している人はこんなにもいる
そういう人たちに出会うたび、肩にのしかかった重りが少しずつ軽くなっていく気分だった。結婚や出産を経ても、こんなにも挑戦している人たちがいる。夢を叶えている人たちがいる。そして、それを受け入れてくれる会社や環境もある。今なら素直にそう思える。
できることなら、そういう話をもっと早く聞きたかった。結婚したら不利になると、いつか誰かから聞いた呪いのような言葉を否定してくれる事実を知りたかった。「結婚しても大丈夫だよ、割と何でもできたよ」っていう言葉をネットの記事に探していた。だから、私はこのエッセイを書くことにした。いつかの私がそうだったように、結婚に不安を感じている誰かの心に届くかもしれない。
結婚が転職に不利になるかもと不安だった、あの頃の私へ。
「結婚しても大丈夫だよ。全然関係ないよ。だから、安心して喜んでよ。」