我が家のお風呂の温度は42度、少し熱め。軽く体を流して湯に浸かったら、首、肩、腕、腹、腿、膝、爪先まで全身を優しくなでる。
のぼせないよう、1度に長くは浸からず、湯船から出たり入ったりを何度かする。そうやってその日1日頑張った私の体をいたわり、ゆっくりほぐす。
お風呂は誰にも邪魔されない、私だけの特別なセルフケアタイムである。
浴室の灯りをつけず、暗い状態で入浴すればまるで洞窟の温泉にいるよう
コロナ禍になりおうち時間が増えてから、お風呂で行う新しい習慣ができた。それは、お風呂に入るときは浴室の灯りをつけず、あえて暗い状態で入浴する、というものだ。
暗がりにいると、視界が限定され、自然と意識が自分に向けられる。浴室の電気をつけないという簡単なことだけで、まるで洞窟の中の温泉に入ったかのような気分になれるため、わりと気に入っているのだ。
2020年3月初旬、留学先の台湾から帰国した私は、先の見えない日々に不安になり、失望し、ネガティブな思いばかりを抱えていた。
新型コロナウイルスによる感染拡大。目に見えないウイルスを気にしながら生きていかなくてはいけない毎日。
その上、社会人になってから私費留学を決めた私は当然無職で帰ってきたため、職探しもしなくてはならなかった。実家というライフラインがあったのが幸いだったが、コロナによる解雇や倒産が増加する中での就職活動にはかなり不安がつきまとった。
コロナ禍での不安に心削られる日々。セルフケアが心身の癒しに
ようやく就職先が決まり安心した2020年4月、緊急事態宣言が発出され、入社日が6月に延期された。
金銭的な不安は精神の不安定さをもたらした。帰国後、友人にも会えず、働きたくてもすぐに働けないというもどかしい気持ちが私を卑屈にさせ、私の自信を奪い、心が削られていった。
ステイホームの日々が続き、なんとかモチベーションを高めようと料理や語学勉強、筋トレ、ヨガなど色々やったものの、それはそれで疲れる毎日。心身の疲れが癒やされるのはセルフケアをしている時間だけだった。
ある日、お風呂に入っていると、浴室の照明が陽光ほどに眩しく感じた。灯りが強すぎて、リラックスしたいのに落ち着かない。
そこで電気を消してみると、まるで氷が溶けてゆくように、緊張した心がゆっくり解けて、最高にリラックスしながらバスタイムを過ごすことができたのだ。
それから今日まで、毎日真っ暗な浴室で湯に浸かることを続けている。光も人も、眩しいと思う対象からはエネルギーが出ていると感じる。エネルギーを感じることはポジティブだが、疲れを癒すときは眩しさをシャットダウンしてゆっくり呼吸をするのがいい。
湯に浸かりながら世界への旅へ。私は「フロトラベラー」
最近の楽しみは、湯に浸かりながら世界への旅を始めることである。「フロトラベラー」とでも言おうか。
意味がわからないと思うので簡単に説明すると、湯に浸かって目を瞑り、世界の好きな景色や行きたい場所を思い浮かべて、旅した気分に浸るのだ。
空港のチェックインも空の旅も、移動も全て省略し、絶景だけを堪能するいいとこ取りのフロトラベル。
にぎやかさが恋しいときは、台湾の夜市を思い浮かべ、多種多様の食べ物が混ざり合った匂いを思い出す。
思いきりリラックスしたいときは、オーストラリアのビーチの木陰に寝そべる想像をする。
バルセロナで見た忘れがたい朝日、まだ行ったことないエジプトのピラミッド、死ぬまでに見たいトルコのブルーモスクも、回想と妄想を膨らませて思い浮かべ、いい気持ちになる。
世界の景色をスライドショーのように次々映し出せば、どこへだって行けるんだ。
自分が心地よいと思えることを見つけると、楽しいときも、しんどいと思ったときも、何か為せたと思えない日々でも、呼吸がしやすくなる。
この感性を大切にしてゆきたい。