今日も結婚の準備は進んでいる。それなのに、わたしは自分が結婚していい人間なのか、悩むことがある。
だって自分が結婚するときは、仕事もできて容姿を磨く努力も怠らず、家事も完璧で、海のような広い心で相手を受け入れる、素晴らしい女性になっているときだって思っていたから。そしてそんな素晴らしいわたしが、結婚相手を幸せにするのだ。

でも今のわたしは全然完璧じゃない。突然プロポーズされて、いつの間にか親へのあいさつも済んで、当然のように結婚することになっている。もちろん、結婚を承諾したのは他の誰でもないわたしだが、それでもいまだに自分を疑い続けている。そして、高価な婚約指輪はまだ自分にふさわしくないから断り続けている。

完璧には程遠いこのわたしと結婚したら、彼は不幸になりやしないか？

そもそも彼と結婚することになろうとは、数か月前には思いもしなかったし、１年前にはまず出会ってもなかった。だからプロポーズされた時、驚きのあまり自己卑下祭りをしてしまった（まだ貯金も無いし、ブスだし、家事も苦手だし、等々）。

それに対して彼は、それらをさらりと否定しつつ、「あなたを尊敬しているから結婚してほしい」というようなことを言った。でもこんなわたしではあなたを幸せにできる気がしない、と答えると、「俺があなたを幸せにするからかまわない」と言う。嬉しい。嬉しいけど自信はない。それでも彼と結婚したい気持ちは大きくて、悩んで悩んで承諾した。

もちろん彼に大きな問題はないし、そもそも自分に自信があれば、プロポーズの返事はとてつもなくでっかい声で「ハイ！！！」とやれるくらい、結婚するなら彼しかいないと思っている。そして何と言っても周りがすごく応援してくれる。
しかし今なのか。完璧には程遠いこのわたしと結婚したら、彼は不幸になりやしないか？

完璧にならなくては、と思う理由は両親の結婚生活

わたしがこんな風に考えるのには理由がある。両親の結婚生活だ。わたしがまだ小学生だったころ、両親はまだ仲がいいように見えた。夕食の席では楽しそうに話しをしていたし、休日は家族で出かけたりもした。
しかし、中学生、高校生と部活に明け暮れ、休日も学校で過ごすようになったころ、なんだか不穏な空気が漂うようになった。
父は帰宅するとまっすぐに自室へと向かい、食事の時しか出てこなくなった。母がそれに拗ねてみせても、父は黙々と食べ続けるだけだ。とうとう母が父に声をかけなくなり、いつの間にか、必要事項は兄やわたしを通してしか伝達されなくなっていた。

会話は子供がいなければ生まれなかった。わたしには父が悪いように見えたが、最近になって兄から聞くところによれば、母のメンタルの不安定さに父が辟易し、深入りしないようにしているうちに後に引けなくなった結果らしい、とのこと。兄は、「怒鳴り合わないだけましだ」という。

ひとりで完璧を担う必要なんてない、結婚は二人でするもの

わたしは母に似て、それなりにメンタルが弱い。完璧なわたしになってから結婚したいという望みも、たぶん「自分が原因で、母のように、夫と不和を起こしたくない」からだ。
いずれにしてもあんな結婚生活にしたくなくて、実現するはずのない「完璧なわたし」に解決策を求めてしまうのだ。

しかし自分に自信がないのを理由に彼からの申し出を断ってしまうのは、あまりに惜しい。そして承諾した以上、自分の弱さで彼との結婚生活を不幸なものにしてしまうのは、もっともっと惜しい。
だから腹をくくって、わたしはこう自分に言い聞かせることにした。彼もわたしが彼を幸せにしたいと思うのと同じように、わたしを思ってくれているのだから、ひとりで完璧を担う必要なんてない、結婚は二人でするもの、と。

さて今日も少しずつ、結婚の準備は進んでいる。彼は、わたしを幸せにできる方法について考えながら。わたしは、どうやったら自信満々で「彼を幸せにする！」と言えるようになるのか探りながら。
式を挙げる頃、わたしは「完璧なわたし」の幻想を手放せているだろうか…
大丈夫、きっとできている。