高校時代、私の余計な一言がなければ友達になれてたんじゃないかな~と思う子がいる。

春にクラス変えをしたばかりの頃。彼女とは移動教室のときだけ一緒に行動するような、まだ友情が芽生える前の関係だった。
廊下をふたりで歩いているとき芸能人の話題になった。自然な流れで、彼女は「ジャニーズ好き?」と問いかけてきた。
「んー、よく分からない!みんな同じ顔に見えるんだよね~!」
私は率直な気持ちを伝えた。そして彼女も「そうだよね~!」と笑い返してくれたが、翌日からほんの少しだけ、態度がよそよそしくなった気がした。

「ジャニーズ好き?」という質問で、私は友達のふるいから落ちてしまった

季節は夏になり、女子がいくつかの仲良しグループに別れた。私と彼女の仲はとうとう深まることがなかった。もっと親しくなりたくて機をうかがっていると、彼女の交友関係を観察するうちにジャニオタだと判明した。
そのときの私の心境ときたら、「やっちまった…手遅れじゃん(トホホ)」なのであった。
あの日、あのとき、私は彼女の大切なジャニーズを「同じ顔に見える」と言ってしまったことを後悔した…。(トホホ)

彼女から感じる違和感と、いつまでも気を許してくれないことに納得した。謝りたかったけれど、どう謝っていいか分からなかった。
もしも彼女が「私ジャニーズ好きなの!」と言ってきて、それに対して私が「ジャニーズなんぞ知らん」と言ったならば、謝りようはあると思う。

彼女は自分がジャニオタだということを周りに秘密にしているようで、敢えて疑問形で聞いてきた。
その気持ちにとても共感できた。私もアニオタで、否定されるのが怖いからオープンにはしていなかった。つい疑問形にしてしまう。相手の出方を見て決めるというのは、私もよくやる手法だった。
「ジャニーズ好き?」という質問で、私は友達のふるいから落ちてしまっただけだ。本当に謝るようなことが起こる前に、彼女から一線引かれたのだと思う。

謝りたい、大切な趣味を否定するつもりじゃなかったと

もっと仲良くなりたかった。一緒にお弁当を食べたり、いろんな話をしてみたかった。彼女が親しくなった友人達とこっそり推しの話で盛り上がる姿を指をくわえて見守った。いいな、いいな~。
謝りたい、大切な趣味を否定するつもりじゃなかったと。嫌な思いをさせていたらごめんねって謝りたかった。

でも、この気持ちはきっと自分勝手なエゴだ。仲良くなりたくて、関係を深めたいから謝りたいと思う。彼女の方は謝られてどう思うだろうか。つかず離れずの距離感の相手に突然謝罪されてどん引きじゃなかろうか。

謝ることは諦めて、何を思ったのかネット通販でジャニーズの「付箋セット」を購入した。(確か彼女の推しはこのグループに居たはず…)
後日届いたブツを厳重にラッピングして、誰よりも早く学校へ行き、彼女の下駄箱に忍ばせた。登校してきた彼女は無事、差出人不明のお詫びの品に気づいてくれていたようだった。
その後もこれといった進展はなく、彼女とは高校を卒業してから会うことはないし、連絡先も知らないままだ。

きっと彼女にはもう会えない、だからこんなに心残りなのだ

今の私だったらもう少しさりげなく、相手が気を遣わない言葉を選んで謝れたかもしれない。少なくとも差出人不明のブツを下駄箱に置くような真似はしないだろう。

社会人になってからは、ますます謝るスキルが求められるようになった。私はそのたびに、ふわっと彼女のことを思い出して切なくなる。きっともう会えない、だからこんなに心残りなのだ。この気持ちを成仏させてあげるだけの謝るスキルを、私はいつか身につけたい。